久留山家謹製音声通信機能付縫いぐるみ型監視カメラの記録
□樹化症
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力が入らないのか、動かし辛そうに腕を挙げ、ベッドサイドの棚に手をかける。よっこらしょと引き出しを開けて、鈍色の素朴な鍵を取り出した老人は、そっと夙の手に握らせた。
「依頼の報酬だ。好きなものを持っていきなさい。
──ただ、この鍵を預ける代わりにもうひとつ、聞いてくれるかね?」
夙が頷くのを確認して、老人は続けた。
「私が木になったら、枝を一本、家の庭に植えて欲しい」
「……緑に呑まれた地区って言ってた」
「そう。樹になった家族と共にありたいという、この老いぼれの最期の願いを聞いておくれ」
「……断れないって知ってて言ってる?」
「君なら、きっと叶えてくれると……信じている」
微笑む老人から、手の中の鍵に視線を移す。
託された願いを受け入れて再び老人に視線を戻せば、そこには一本の金木犀。
ナイフを抜き、樹皮にあてる。
「……連れてくよ」
削ぎ落とした枝を手に、夙は病室を出た。
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