増血鬼〜裏切りの王子〜

□第五夜:増血鬼
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その瑠夏の表情は、俺が見てきた瑠夏の顔で………胸が痛んだ。

しかし、瑠夏は…あの男の時と同じで笑いながら聞いてくる。

手を伸ばせば届きそうなのに、まるで瑠夏だけが別の世界に居るようだ。

「正樹、俺は正樹が好きだった……ずっとこうしたかった」

違う……。

瑠夏は、望んで居なかった。

瑠夏は……俺と清い関係のままで居たいと、あの夜…そう思ってた筈だ。

だから俺を、汚さなかった。

しかし、今の瑠夏の心は分からない。

瑠夏は、俺のズボンに触れた。

形を確かめるように、なぞるように触れた。

一瞬ビクッとした。

瑠夏は、本気なんだろう。

俺は、ただ「逃げる」としか頭に残されて居なかった。

相手が誰だろうと、たとえそれが瑠夏だろうと俺は拒んだ。

すると瑠夏は、何を思ったのか……自分の武器であろう二本の短剣を出した。

これから、何をされるのかなんて……分かってた。

死への恐怖が来るんだ……また。

瑠夏は何も喋らない。
そんな瑠夏は、俺の両手を束にして頭の上に持ってき……グサッと嫌な音と共に俺は、涙を流した。

「あああぁぁぁ」

両手に突き刺さった一本の短剣。

血が溢れる。

瑠夏は、嫌な音を立てながら俺の血を舐める。

下手に抵抗すれば、傷口が広がり…痛みが悪化する。

俺は、身動き出来ない状態となった。

そして、もう一つの短剣で俺の身体に傷を付けてく。

頭の上に伸ばされた腕を短剣が撫でるように触れる。

傷は浅いけど、俺にとっては充分な程の恐怖だった。

上着の服を引きちぎり、首筋にキスをした。

「……瑠、夏ぁ」

「……なぁに正樹」

苦しい俺の声に、愉快そうな瑠夏が答えた。

すると、首筋を瑠夏が噛んだ。

吸血鬼の映画なんかで見る吸血だ。

「…いっ、いやだ……やめっ…」

「んっ……美味しい」
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