Wild cats

□序章
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「お前は最も愛を知りながら、最も愛を知らない。それゆえに、人類最アイ」



そう呼んでいるのはお前だけだろう。



「そーか?他の奴らも納得してたぜ」



それは面白がっているだけだ。

私が、人類最愛などであるはずがない。



「最愛じゃねえよ、最アイだ」



どちらでもいいことだ。

どちらにせよ、私はお前たちと同じく“最”の名に囚われるつもりはない。



「一緒じゃねえよ。愛だけじゃない。お前は哀だって知らない。その身に持つものは大きいくせして、何も自覚してない。お前は自分について知らな過ぎんだよ。自分について、無関心すぎる。無知で無関心で無感動だ。だから今はそれは制御されていない。自身への無関心の反動かのように、そのアイは周りへと放出されている。そんな状態だからこそ、誰もがお前の愛を求め、欲し、逆にお前に愛を与えたがる。そういう意味じゃ、最アイでなく最愛ってのもその通りなのかもな。…それをお前が知り、自覚し、なおかつ誰か1人にその愛がそそがれるようになったら、そいつは世界一の幸せもんだろうよ。…いや、むしろ不幸者、か?」



……。



「お前が愛を知れば、同時に哀も知ることになる。そうして自分を知ることができ、制御できるようになれば…お前は本当の意味での人類最アイになる」



…言葉遊びなら戯言遣いとやれ。

生憎だが私はそんな意味の分からない話を聞いている時間はない。



「まあそう言うなって。…ただこれだけは知っとけよ?お前は良くも悪くも、誰もが気にしてしまう存在なんだってことをな」



……。



「ま、つまり何が言いたいかって言うとだな。
アタシは千鶴のことがだーいすきなんだから、勝手に不幸せになったりすんじゃねえぞってことだ」



そう言って、人類最強の赤色はシニカルに笑った。















ねえ人識。



「…お前、何度も言うけど俺の方が年上だぞ?」



じゃあ人識お兄ちゃん?



「…俺をあんな変態な兄貴と一緒にすんな」



じゃあ人識。

…鏡って何?



「あ?何、そんなもんも分かんねえの?」



そっちじゃなくて、人識の鏡。

いーくんの方。



「ああ…欠陥製品か」



どうしたら、あたしも自分の鏡の向こう側に会えるのかなあ…



「かはは、なんだよ、会いてーの?」



だって気になるじゃん。



「別にいーもんでもないけどな」



そうなの?

だって、いーくんが零崎とは仲良しだよって。

一緒にカラオケとか行くと楽しいよって。



「あの野郎…」



…もしかして嘘?



「嘘だ嘘。誰があいつと仲良しだっての」



そっかー…

…でも、会いたいなあ…



「…会った途端に零崎しねえようにな」



……自信、ないかも



「かはは、ま、そーだろうよ」



そう言って、人類最弱の鏡の向こう側は、笑い声をあげた。















「姫ちゃんはですね、キョウ先輩のことを尊敬まではいかなくても行為は抱いてるんです」



好意、な。

行為を抱くってどうやんだよ。

分かりにくいボケを挟むな。



「でもでも、たまーにちょろっとムカついちゃいうこともあるんです」



無視か。

俺の言葉総無視か。

…つーか、むかつく?



「だって先輩は、なんだかんだ言って自由じゃないですか」



……。



「姫ちゃんにないものをたくさん持ってます。なのに、それに気づこうとしない。気づきそうになると、目をそらす」



……。



「まるで師匠みたいです。お馬鹿さんです。ダメダメな臆病者です」



…お前何気に戯言遣いも一緒に落としてんぞ。



「だから決めました!姫ちゃんが、そういうところをちゃんと教えてあげます」



……はあ?



「今まで言わなかったから気づかなかったんだって、姫ちゃん分かったんです。だからビシバシ言います!!鬼を心にします!!」



…心を鬼に、な。



「そうしたら、きっともっともっと、キョウ先輩と仲良しになれるでしょう?」



そう言って、ジグザグの弟子は、無邪気な笑みを浮かべた。















「どこに行く気だ?」



…狐さん。

いえ、別に特にどこ、ということは決めてませんよ。

ちょっとお散歩に。



「『ちょっとお散歩に』、か。ふん」



それがどうかしましたか?



「お前もどこかに行くのかと思っただけだ」



…?



「自覚はねえだろうよ。だが、ま。達者でな」



変なことをいいますね。

まるで私が返ってこないみたいな。



「『まるで私が返ってこないみたいな。』ふん。まあ、登場人物が先の展開を知っているような物語はないかならな。むしろあったら興ざめだ」



……。



「お前相手にこれを言うのも悪くない。…セツ、」



…はい。



「縁が合ったら、また会おうぜ」



そう言って、人類最悪は、ニヤリと笑みを浮かべた。












その日、とある世界から4人の女が姿を消した。


しかしそれでも、世界は回る。


回り続ける。


彼女たちの変わりを、誰かが務め。


物語は、止まることなく進んでいく。


まるで、初めから彼女たちなどいなかったかのように。


まるで、彼女たちの存在など物語には取るに足らぬ存在であったかのように。


物語は、その穴を飲み込み、修正を続ける。


――いや。


むしろ、彼女たちがそこにいたこと自体が、イレギュラーだったのかもしれない。


だから彼女たちは、吐き出された。


物語の、むこう側へと。


そして本来あるべき物語が、彼女たちを飲み込んでいく。


ぽっかりと空いていた穴を、埋めるかのように。


物語を、修正するかのように。





――――そして物語は、回り始めた。







To be continued...


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