忘れられし詩

□愛と哀しみと淋しさと
  秘めしものは己の心
1ページ/4ページ

力ありて 我を縛るもの

お前がはじめて俺の名を呼んだ
偽りの名ではなく
俺のほんとうの名前を


出会いは
ほんとうに些細なものだった
最初はお互い偽りの姿をしていたな
お前も俺も
偽りの名を使っていたんだ


俺たちは
幾度となく夜を明した
お互いの姿を偽ったまま


そして何時しか俺は
思うようになっていた
お前にほんとうの名を呼んで欲しいと
同時にそれは
お前と会えなくなると言う事もちゃんと理解していたんだ
俺の名の秘密もちゃんと

でも
俺は己の欲望を押さえられなかった
だから俺はお前に言った
ほんとうの名を
そして 呼んでくれと
お前はそれにこたえてくれた
そっと
俺の耳元で囁くように

『    』

そして
俺は光に包まれた
お前の驚く顔が
泣き顔が俺の心を掴んではなさい

でも
俺はいまここにいる
おまえの訪れる事など叶わぬ檻の中
おまえに会える事はもう二度とないだろう

そう思う俺に声がかけられた

『    』

遥か昔に一度だけ呼ばれたあの声で

俺は信じられぬ思いで目を開けた
そこにお前の顔があることを望んで



いま
俺の長い眠りが醒めようとしていた
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ