五十の音

□その視線の先に
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【その視線の先に】


そこは一歩踏み入れると
底がない海のよう
もがいても、もがいても
地上に上がることができない

もがけばもがくほど
地上が遠くなるばかり
逆に沈んでいく



「なんやねん、じろじろみるなや」


美空を見ていると、
たぶんその感覚と同じなんだろうなと思う。

抜け出せない
いや、抜け出したくないと思う。

不快感はない、
だけれども、自分だけがそこに沈んでいくようで

美空が遠くに遠くに行ってしまうのではないだろうか?


「たーつーやー!!」
達「?」
「何ぼーっとしとんねん。
練習、いくで!」
達「ま、まってぇやあ!」


俺は、どんなにもがいても
美空の視線を独り占めできないのだ
愛おしい美空の視線の先はいつもきまってあの人だ


喜「おー、今日も二人は仲良しじゃのう」
「そんなことないですー」
達「ひどー」
喜「二人とも、次の大会はがんばれよ」
「「はい」」


そういって去っていったあの人の後姿を
美空は愛おしそうに、とても大切そうに見つめている。
わかるんだ、美空があの人のこと好きってことくらい。
小六の俺でもわかる・・・・

あの人が、すきなんだって


愛おしい美空の視線の先は
俺がこの世で一番嫌いなあの人だった。





=達也君の憂鬱







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