鬼と仏の福笑い

□9
1ページ/2ページ



【9:知らぬが仏。】



鬼灯事件から月日がたち
学年が上がっても相変わらずの仏気のお笑いばかっぷりにはあきれるものだった。
ネタ合わせは、昼休みと鬼灯のバイトが終わってから。
今ではすっかり鬼灯のバイト先の常連さんになってしまっている仏気だった。

それくらいみっちりやってきたものだから
息もぴったりでようやく相方感があふれていた。


しかし、この春のシーズン、
学年が上がるとともにクラス替えもある
もともと違う組だった二人もこのクラス替えで何の因果か同じクラスになってしまったのだ。

鬼「腐れ縁もいいところやで、ほんま。」
仏「えっへへ〜。しかもお隣さんやな。」
鬼「うっさいだまれ。」
仏「んもう、桃ちゃんったら、てれっちゃって〜。」
鬼「オカマか!」
柴「そこ、静かにしろ!」
鬼「チッ、なんでおまえが担任やねん。」
柴「ふ、ふ、ふ、ばかにするなよ〜。
一年間、このクラスを運動部に入部させるのが俺の務めだ!よろしくな!」

鬼「その前に、すぐに引退やろうが・・。」


ぼそりとつぶやいた鬼灯の一言にクラスは爆笑に包まれた。
そんなこんなで二人は高校生活最終学年をスタートさせた。


東「桃ちゃん!桃ちゃーん!」
鬼「ん・・?あぁ、あずm」
東「く・る・み!胡桃って呼んでって言ってるでしょ!」
鬼「で、なんやねん・・・くる・・み。」
東「んふふ。あのね、桃ちゃん。今日放課後あいてる?」
鬼「いや、バイトあるかな・・。」
東「何時に終わるの?そのあとでもいいから・・」
鬼「悪い、うち、そのあともやらなアカンことがあるから。」
東「うぅううう。一日で良いからつきあってよーーー。」
鬼「無理やって。」


鬼灯は面倒なことになるまえに素早く屋上に向かった。


仏「おっそーいぞー。」
鬼「誰に向かっていっとんねん。どつくぞ」
仏「わわわわ・・。すみますぇん」
鬼「ムカつく。わかった一回どつく」
仏「いてっ、」

そう、今日もこんな風に昼休みを過ごしている。
屋上は春の日差しが直にあたり
鬼灯は目を細めて遠くを見ていた。
それは鬼灯の癖なのだろう、屋上に来るたびそれをしていた。

仏「聞いてる〜。なあ、鬼灯〜。」
鬼「んー・・・・。」
仏「でな、今年のM-1のエントリーなんやけどー。」
鬼「んー。」

ほんの時々だけど、鬼灯は鬼じゃなくなる。
いつも眉間にしわを寄せていて
仏気もたまにしか鬼灯のこのぼーっとした顔は見ない。
この顔をしているときはたいがい鬼灯が何かを考えているということだろう。


仏「最近、鬼灯ねてないやろ」
鬼「…。ん?あ、何?」
仏「いや・・なんもないけど・・。」
鬼「なんやねん気になるやんけ」
仏「えぇから、寝とき。」
鬼「はぁ、ネタ合わせは?」
仏「えぇから、えぇから、ほら、ひざまくらしたるやん。」
鬼「ん。」
仏「!」

何気なくだした仏気の提案に鬼灯は素直に従ったものだから。
仏気は少し戸惑ったが胡坐をかいた膝の上に重みが乗った瞬間悟った気がした。


仏「(よっぽど疲れてたんやな・・。最近バイトも毎日はいっとるのに、12時超えるまでネタ合わせやからな・・。)」

すやすや眠る鬼灯の髪を撫でて
仏気はネタ帳を開いた。

仏「(それにしても・・。)」

開いたネタ帳をいったん地面に置いてから鬼灯の顔を見た。

仏「(天女みたいな寝顔やな…。すんごいかわいい。
ってか、男の前で眠るって・・どんだけ無防備やねん
仮にも相方やったとしても俺にも理性というものがあるんですよ鬼灯さん・・・。)」

出しかけた手を引っ込めて必死に今の状況に耐える。
鬼灯はいつも眉間にしわを寄せて睨んだ感じで男前なのだけれど
今はそれがなくどっちかっていうと美人だ。
やっぱり四分の一は外国の血が入っていると思う。
白い肌に整った顔。綺麗な色の髪色。
本当に鬼灯は輝いていた。


鬼「ん・・・・ほとけ・・ぎ。」
仏「!!」


その時、鬼灯が寝言で仏気を呼んだ。
無意識で呼んだものだから仏気も驚いた。
というより心臓が飛び跳ねた。

ドクンドクンと。



鬼「きしょ・・・。」
仏「(きしょってなんやねん。)」
鬼「・・・スー。」


がくりと肩を落とした仏気はもう一回ネタ帳に目を通した。
まだ、チャイムが鳴らないようにと願って。










次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ