鬼と仏の福笑い

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【10:遠くなれば薄くなる】


気づいてしまえばそれは面倒なものだった。
いつも隣にいる鬼灯のことをどうしても意識してしまうからだ。

仏「(…。どうしたものや・・)」


授業中に居眠りをしている隣の鬼灯を見て
小さくため息をついてから
人差し指で鬼灯のほっぺたをつついた。
するとすぐに眉をよせて眠そうに仏気を見ている。
今、たぶん一番怒ってるんだろうな…。


鬼「なんやねん。キモい」
仏「今は授業中やぞ〜。桃ちゃん」
鬼「うるさい。」

『鬼灯さん。静かにしなさい。あなたここ答えなさい』

鬼「あ?あぁ・・ったく、」


だるそうに鬼灯は立ち上がって
黒板にかかれた問題をすらすらとといてゆく。
話を聞いていなくとも、鬼灯は簡単に答えてしまったものだから教師は少し悔しそうな顔をした。
鬼灯は何事もなかったかのように席に戻り
また夢の中へと入って行った。


仏「(ほんの数秒でねむれるのか・・・・。なるほど、カップラーメンよりも早いな。)」

ノートの端っこに思わずメモしていた。
そういう仏気も、さっきから授業のノートよりも上にネタ帳を出していた。
授業中に考えた方が集中力が増すらしい。
それでも授業に追いつけているから仏気も侮れない。
そんな二人だからこそ教師一同は二人が何をしていても意見を言うことをしない。


仏「(よし、これでオッケー。
文化祭はいただきやな。)」


ようやくネタが書き終えたころには授業終了とともにお昼を知らせるチャイムが響いた。
それを聞くや否や鬼灯はスクッと立ち上がって素早く教室を出て行った。
仏気はネタ帳と弁当だけを持ってそのあとを追いかけた。


そう、いつもの屋上へと向かうはずだった。



?「桃さん」
鬼「?」
仏「ん?」

急に鬼灯を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ったその先には真新しい制服を着た大柄の男子がいた
校章の色を見る限り、今年から入学してきた一年だろう。
だが、鬼灯はその人物を知っていた。



鬼「せ・・い?」



鬼灯はぽつりとその男のこの名前をつぶやいた。
その眼はすごく驚いた顔をしていた。


仏「知り合い?」
鬼「おお、…一様。久しぶりやな星(セイ)」
大「桃さん、覚えててくれたんだ。嬉しいです。
あ、俺は大倉星(おおくらせい)っていいます。」

星と呼ばれた男は仏気の顔を見てニコリとあいさつをした。
髪の色は鬼灯と同じ、いやそれより少し明るめの茶色だった。
一年だというのに180cm代の仏気の身長と変わらないぐらい大きい。
しかし、その髪の色や顔つきとは逆に礼儀が正しいものだからギャップが激しい。


大「よかった。・・俺、桃さんのいる高校受けようと思って頑張ったんですよ!
よかった、また、桃さんに会えた。
桃さんってばしばらく会わない間に可愛くなってるから見つけるの大変でした。」
鬼「可愛い言うな!・・・ったくお前は背丈以外なんもかわっとらへん。
ああ、あんなかわいかった声がこんなに声変わりしてるなんてちょっとショックやな。」
大「でも、やっと桃さんの身長ぬけたからうれしいです。」
鬼「あほか、でかなりすぎて、見上げるのに首痛ぁなるわ」
大「じゃあ、俺が桃さんの目線に合わせますよ。」
鬼「あほか。近いねんあほ。」

そういって鬼灯は笑っていた。
仏気は少し疎外された気分だった。
突然現れたこの1年に鬼灯をとられた気がした。
おそらくこの1年、いや大倉星というやつは鬼灯とすごく仲良いのだろう。


仏気の中ではどす黒い何かが渦巻いていた。




仏「鬼灯…俺、先にいってるから。」
鬼「あ、・・じゃあうちも行くわ。」
仏「えぇよ、久しぶりの再会なんやし、ゆっくり話しぃ」
大「え、いいですよ。あ、じゃあ、お昼一緒に食べていいですか!」
鬼「は?・・・あ。・・それはちょっと。」


ばか、違うんだよ。
ズキリ、ズキリと痛む仏気の胸の中。

仏「(これ以上はキキタクナイ。)」
鬼「とにかく、うちは用事があるから。また今度な。」
仏「!?」
大「そうですか、すみません。
でも、また来ますから!」
鬼「おお。」

鬼灯は仏気の大きな背中を押して
階段を駆け上がって行っていた。
鬼灯たちがいったあと、大倉はその微笑みの表情から一転鬼灯たちのかけて行った方向を睨むように見ていた。



大「俺は、そんなふぬけたあなたに会いたくてこんなつまらない高校に来たわけじゃないんですよ、桃さん。」



ぽつりとつぶやかれたそれは誰にも聞かれず
そっと音を消したのだった。




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