short stories 1
□北風と太陽と
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「とうさんと、一緒にいる」
そう言った後、その男の子は隣にいた父親の手をギュッと握った。
少しの間を置き、わかったと頷きセフィロスは小さな身体を片手で軽々と抱き上げる。
自分と同じ銀髪が夕日に輝き、また母親を想わせる緑の瞳が不安げな光を宿しこちらを見ていた。
「うちに来ていいのよ?マリン達もいるし、賑やかだから楽しいわよ」
ティファが戸惑いを隠し明るい声で言ってみたが、その子はただ無言で首を振るだけだった。
「大丈夫だ。エアリスが入院している間、俺が面倒をみる」
「でも、お仕事はどうなさるんですか?それにうちなら、全く構いませんから」
「仕事は……そうだな。幸い当分ミッションもない。事務仕事だけなら一緒に連れて行こう」
えぇっ!とティファを始め研究所の医師達が驚きの声を上げる中、セフィロスは息子を見て優しく微笑んだ。
「ホント?僕、一緒に、いられるの?」
「そうだ。その代わりいつもより朝は早いぞ。起きられるか?」
「大丈夫だよ!とうさんより早く起きて、朝ごはんの用意、するよ!」
嬉しそうに父親に抱き着く子供の姿を見て、ティファが仕方ないわねと笑ってため息を吐く。
「わかりました。でも何かあれば連絡下さい。すぐに駆け付けますから」
「ありがとう」
なんとか上手く収束した事態に、ティファも医師達も心から安堵することが出来た。
それはつい半日前のこと。
ミッションから帰還したセフィロスを待っていたのは、至急研究所に来て欲しいというティファからの伝言だった。
そしてセフィロスが急ぎ出向いてみれば、そこにはベッドに横たわり眠るエアリスと、つい先日5歳を迎えたばかりの息子が、泣きそうな顔で自分を待っていた。
「ちょっとだけ、不機嫌なのよ」
しばらくして目覚めたエアリスは、星の声がうるさいのだと、か細い声でそう言った。
「少し休めば、すぐに良くなるわ」
だがセフィロスがチラリと医師達を見ると、全員がとんでもないと目で訴えつつ無言で首を振る。
そこで見兼ねたティファが、
「残念ながら、今回は休養が必要よ。少なくとも一週間はゆっくり休まないとね」
エアリスの手を握りながら、後は任せて眠りなさいと語りかけた。
そしてエルミナが所用で不在の今、いつも通りティファが子供を預かると申し出たのだが、何故か今回は絶対父親と共にいるのだと言い続けたのだった。
「僕、いい子でいるよ。……母さん」
病室から出る際、一度だけ振り向き小さく呟く。
セフィロスは息子の頭をポンと軽く叩くと、自身もエアリスの姿をもう一度だけ見遣った。
もしかしたら、不安で仕方ないのは息子よりも自分の方なのかもしれない。
だがセフィロスは弱った気持ちを無理矢理どこかへ押しやると、行くぞと言いその小さな手を改めて握りしめた。
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