short stories 1

□乙女の祈り
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だが果たして遠征先ではどうなのかと問われれば、タークスの情報網にかからない場所で、密かに楽しんでいる可能性はある。

実際、以前ミッション完了後の夜の花街で、長い銀髪のソルジャーを見たという報告を受けたことがあった。

とにかくは、ありとあらゆる噂が今でも絶えない男故に、万が一という可能性はやはり捨てきれない。

そしてそんなセフィロスが一番大事にしているエアリスは、世界で唯一の貴重な古代種であり、神羅にとっては現在最大級のお宝とも言える存在なのである。

いかに『英雄』と言えども、彼女を自分だけの所有物にするなど許されないことだ。

それに…と、ツォンは再び軽いため息を吐く。

今の二人の危うい関係を、もしルーファウスが知ったら。

あの世間知らずな我が侭息子が何をしでかすか、考えただけでドッと疲れが襲ってきた。

ルーファウスもまた、エアリスは自分の意のままに出来るものだと勘違いしている節がある。

彼女は『神羅』が求める人間であり、実際ルーファウス個人には何の権限もないというのに。

「…全く、どいつもこいつも……」

最後には尻拭いに走り回る己の姿がすぐそこに見えると思ってしまうのは、多分気のせいなどではないのだろう。

とにかくは、今度セフィロスが帰ってきた時には監視の目を怠らないことが重要だ。

恐らくそれは、最終的にミッドガルの平和にも繋がってくると、ツォンは堅く信じている。

「そろそろ時間です」

背後に待機していた部下の声にわかったとだけ答え、最後に一度エアリスを振り返る。

何かを一心に祈る彼女は、幼い頃から変わらない、そのままのエアリスだ。

だが、確実なことが一つある。

彼女はもう、モンスターと一戦交えては傷付きツォンに背負われていた、あの小さな女の子ではない。

スラリと伸びた肢体は、世間一般の男達から見ても十分魅力的に映るだろう。

それに加えて幻想的なあの緑の瞳ですがる様に見つめられれば、大抵のお願い事は軽く叶ってしまう気がする。

そしてあの男も、もちろんそれに気づいているはずだ。

「セフィロスの帰還予定は?」
「確か…今週末のはずです」

上司の問いに一瞬だけ考え、部下の男が答える。

「明日よりここの頭数を増やす。八番街の警備もだ。とにかく、ターゲットに接触しようとする奴がいたらすぐ私に報告しろ。特にセフィロスがこのミッドガルに戻った時は厳戒体制を取る。いいな、何があっても彼女を一人にするな。これは古代種を護るための重要な作戦の一つだ」
「了解です。すぐに人数を手配します」

タークスらしく冷静な声で返事をする部下に、頼んだぞと肩に手を置き声をかけた。

セフィロスは必ずエアリスの元にやって来る。

だが自分が動くからには、そう簡単に二人が会えるとは限らないだろう。

ミッドガルの平和と秩序を維持するのが、神羅としての大事な仕事なのだ。




“急いで大人にならなくてもいい”




ツォンは、胸の中で一人そっと呟く。

それでなくても、彼女は幼い頃からずっと、常に厳しさの中で生きてきた。

だからせめて、この町に安息という時間が訪れている間だけでも。

……エアリス。

おまえに平凡な日常を過ごして貰いたいと思うのは、恐らく私の勝手な言い分なのかもしれないが。

但し今は最強の警備体制を確立すべく、タークスとして出来るだけのことをするまでだ。

たとえ、それが数時間の短い抵抗であったとしても。

「……悪く思うなよ」

そう呟き教会を出て歩き出すツォンの口元には、どこか優しい小さな微笑が、知らず浮かんでいた。





〜FIN〜
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