short stories 2
□Close your eyes 〜瞳を閉じて〜
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エアリスが強い口調で否定すると、セフィロスが喉の奥でククッと嗤ってみせた。
「…まあいい。どちらにしろ、おまえは俺から逃れることは出来ない」
「……離して。わたしに触らないで。今のあなたは、本当のセフィロスじゃない」
「俺は“俺”だ。それ以外の何者でもない。……あの坊やと違ってな」
「クラウドは…っ!」
セフィロスは叫んだエアリスの身体を強く抱き込み、顔を後ろに向かせるとそのまま強引に唇を塞いだ。
逃れようと暴れるも、たくましい腕はびくともしない。
なのにエアリスを味わう唇は強引ながらもどこか優しくて、セフィロスを拒絶する気持ちを溶かそうとする。
エアリスを、惑わせようとする。
もしかしたらこれは全部夢で、目の前にいるのはいつもの優しいセフィロスなのではないかとさえ、考えてしまう程に。
やがて、気がつくと長い指が首の細いリボンをスルリと解いた。
その指がそのまま肩に移動し、ワンピースの肩ひもがゆっくりと落ちて。
そして次に胸元のボタンを一つずつ確実に外して行く。
焦ったエアリスは唯一動く左手でセフィロスの手首を掴もうとした。
だがそんなささやかな抵抗はあっさりと退けられ、遂には服の中に忍び込んだ大きな手が、柔らかな膨らみを味わうかのようにゆっくりと動いた。
途端にエアリスの肌が赤く上気し、目を開けたまま唇を合わせるセフィロスの心が満足感に溢れた。
彼女の身体は、今でも確実に自分を憶えている。
その瞳の奥には隠しきれない愛情さえ感じられる。
なのに何故、エアリスは自分を拒絶するのか。
母への思慕と彼女への愛は全く別のものだ。
エアリスを守り、共にいたいと願う心に偽りなど何一つない。
これほどまでに、エアリスだけを心から愛しているというのに。
セフィロスは甘く香る唇を開放すると、息を荒くし見上げてくる緑の瞳をじっと見つめた。
うっすらと涙のベールがかかったその瞳はどこか挑戦的な色を映し、自分は何者にも屈することはないと、そう告げているかのようだった。
セフィロスの心が、抑えようのない苛立ちと怒りに黒く染まって行く。
「……そうか。ならば無理矢理にでも理解させるだけだ」
「え…?…きゃっ」
セフィロスは不意にエアリスを抱き上げるとベッドに運び、その細い肢体を上から押さえつけた。
まるで人としての心を忘れてしまったかのように、セフィロスはエアリスの気持ちを全部どこかに追いやろうとする。
自分のことより常に他人の気持ちを優先しようとする優しいセフィロスは、一体どこに行ってしまったのだろう。
そしてそれが全部ジェノバ細胞のせいだと思うと、言い知れない怒りがエアリスの胸に沸き上がった。
「お願い、思い出して!アンジールやジェネシス…それに、ザックスも。皆いつでも、あなたのこと、心配してた」
セフィロスにとって大切なはずのそれらの名を口にしても、その瞳に本来の光は戻らない。
何の感情も映さない瞳は、ただじっとエアリスを見つめるだけだ。
「あなたは、ずっと一人じゃなかったはずだよ」
「……俺には最初から仲間などいなかった。今までも…この先もずっとだ」
「セフィロス…!」
「俺がこの手に掴みたいのは、この星の命運と、そして……」
冷たい手がエアリスの頬をそっと撫でる。
その時だけは、まるで以前の優しいセフィロスのまま。
「……エアリス。おまえだけだ」
そのまま鎖骨の上に落ちてきたセフィロスの唇が、柔らかな肌をゆっくりと動き回ると、白い肌が再び段々と赤く染まって行った。