short stories 1

□乙女の祈り
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唇に触れた長い指が、そのまま首から胸元へと落ちて行く。

長い睫毛に縁取られた魔晄の瞳に映るのは、緊張した面持ちで頬を染める自分自身だ。

はだけた胸元に入り込んだ大きな手が、柔らかな感触を確かめようとゆっくりと動き出した。

耳まで真っ赤になったエアリスを見て、セフィロスは少し面白そうに微笑を浮かべると、細い首筋にそっと唇を寄せ………

「…ダメ!」

叫んだ声は教会の高い天井に反響し、やがてまた静寂が訪れる。





ダメダメダメーッ!!





心の中で再び叫び、エアリスは長椅子に座り込み赤くなった顔を両手で覆った。

あの日から、ふとした拍子にあの時の映像と感覚が鮮明に甦り、その度に声にならない叫び声を上げてしまう。

まだ大人のキスも知らなかったエアリスにとって、あの日の出来事は誕生日のキスとは比べ物にならない程の大きな衝撃だったのだ。

セフィロスの指が

唇が

柔らかなエアリスの肌を味わうかのように優しく動き回って。

何度も触れてくる唇の熱さに、そのまま身体が溶けてしまうかと思った。

あの時の感覚は、いまだエアリスの身体と心にしっかりと刻み付けられ残っている。

「……セフィロス」

そして心に想う名前を呟けば、募る切なさに胸が張り裂けそうな気がした。

彼は今日も何処か遠くの地で、ソルジャーとしての危険な任務に就いているはずだ。

そしていつもの通り、最前線での責任者として多分休むヒマもないほどに忙しく動き回っているのだろう。

エアリスは、ふと思い出したように胸元のボタンを一つ外すと、下着の内に隠れた小さな花の跡を見た。

最初くっきりと残っていたそれは、もうだいぶ色が薄くなったように思う。

多分後数日ですっかり元の白い肌に戻るだろう。

……その前に。

必ず戻ると約束してくれた。

だから、きっと。

その時は。

花壇に降り注ぐ光を見て、エアリスは静かに両手を握りしめる。

そして、今一番想いを伝えたい相手の面影を胸に、その人の無事を星に祈った。






彼女はいつだって、大きな謎に包まれている。

柱の陰に隠れたままエアリスの様子を見つめていたツォンは、長いため息を吐き首を振った。

彼女が何かに悩んでいるのは一目瞭然だが、誕生日のあの日以来、その行動は全くもって不可解で、尚且つ意味不明なことが多いように思える。

昨日は花を売りに出かけたかと思えばすぐ教会に戻ってきて、手入れをするわけでもなく、夕方までずっと花の前に座り込んでいた。

そうかと思えば、確かに朝一度会ったはずなのに、夕方顔を見て久しぶりだねと驚いてみたり。

要するに、彼女はずっと心ここにあらずの状態なのだ。

原因は聞かなくともわかる。

十中八九、あの男のせいだろう。

具体的に何があったのかは知らないが、正直なところ大体の想像はつく。

ツォンは不機嫌な顔で腕を組むと、不敵な顔で微笑を浮かべる神羅の英雄の姿を改めて思い出した。

少なくともこのミッドガルに於いて、今現在あの男に深い意味での特定の相手がいるという話はない。

その昔懇意にしていたと思われるウォールマーケットのあのブルネットの踊り子も、結局田舎に帰り結婚したとつい先日報告があったばかりだ。
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