short stories 2
□Singin' in the Rain
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広場の石畳に、ポツポツと水の雫が広がる。
「…雨?」
見上げた空から、銀色の水滴が次々と落ちてきた。
周りを歩く人々が急ぎ足で走り去る中、ピンクのリボンを着けた少女だけは、傘もささず楽しそうに石畳を歩き出す。
その少女―エアリスは、右手に持つ傘をクルクルと回しながら鼻歌を歌いご機嫌だ。
雨は嫌いじゃない。
そもそも人間には水が必要だし、何よりも身体が生き返るような気がする。
だから、寒くもなく暑くもないこんな日は、ついウキウキとわざと雨に濡れて街を歩くのだ。
髪を飾るピンクのリボンも、折角の白いワンピースも既にびしょ濡れで。
それでも、雨に打たれて歩くことが楽しくて仕方ない。
そして益々元気良く歩いていたエアリスは、突然路地から出てきた黒い大きな影に、びっくりして小さな悲鳴をあげてしまった。
「きゃ…っ!…ってあれ?セフィロス?」
首を巡らせ黒い影を仰ぎ見れば、そこにはエアリスの7つ上の幼なじみであり、ここミッドガルでは神羅の英雄と言われる男、セフィロスが立っていた。
エアリスは満面の笑みを見せ、おかえりなさい!と大きな声で帰還を喜ぶ。
だが一方セフィロスは、びしょ濡れになったエアリスを見て眉を上げると、不機嫌そうに低い声で言った。
「……何をしている」
「え?今?…ええと、歩いてたの」
「雨の中をか?」
「だって、全然寒くないし、気持ちいいから」
「…びしょ濡れだぞ」
「あ、うん、そうだね。でも、だいじょぶだよ?」
「……傘は」
「中の骨、折れて。壊れちゃったの」
ね?と広げた傘は力なくダランと骨の部分がぶら下がり、確かにこれは既に傘とは言えない代物だった。
色々な感情を抑えつつ黙り込んだセフィロスであったが、段々と激しくなる雨に気づくと、自分のコートの中に隠すようにエアリスを引き寄せる。
「セフィロス?」
「話は後だ。とりあえず走るぞ」
驚くエアリスに有無を言わせないまま、セフィロスはエアリスの肩を抱くと雨が降りしきる広場を一気に駆け抜けた。
「コンパートメント(個室)……?」
「クラス1st専用だ」
広場から走り着いた場所は、エアリスも初めて訪れる、神羅から与えられたセフィロスの個室だった。
入っていいのだろうかと内心迷いつつ、おそるおそる中に入りぐるりと部屋を見渡してみる。
窓辺にあるベッド、中央には小さなテーブルと椅子、そして部屋の隅にはキッチン。
それほど広くはないが、かと言って狭いというわけでもない。
よくある普通のワンルームだ。
だがよくわからないけれど、何かがおかしいと感じてしまう。
エアリスが胸につかえたような違和感を抱え立ち尽くしていると、後ろから大きな白いタオルが頭の上にバサリと降ってきた。
「えっ、なに!?」
慌ててタオルを取り振り返る。
すると、セフィロスが後ろにあるバスルームに続くドアを開けエアリスに言った。
「濡れた服を脱いだ方がいい。そのままだと風邪をひく」
「でも…、着替え、ないよ?」
「とりあえずこれを着ていろ」
渡されたのは、かなりサイズの大きなバスローブだ。
「セフィロスは?」
「この服は予め防水の特殊加工がなされている。問題はない」
「……このバスローブ、ブカブカだと、思うけど…」
そこまで言ったエアリスは、恐い顔で腕を組むセフィロスを見ると、口を閉じ大人しくドアの中に入った。