short stories 2

□Close your eyes 〜瞳を閉じて〜
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「…エアリス」
「なあに?クラウド」

疑うことを知らないような、緑色の真っ直ぐな瞳がクラウドを見て尋ねる。

口を開き、何かを言おうとしたがそれは言葉にならず、クラウドはそのまま首を降った。

「……いや、なんでもない。今夜は話せてよかった」
「…わたしも。じゃ、また明日ね。おやすみなさい」
「おやすみ、エアリス」

廊下の向こうに消えるクラウドの背中を見送った後、エアリスは後ろ手に扉を閉めた。

真っ暗な部屋に、大きなため息が響く。

「クラウド……。大丈夫、かな」

本当に、彼はまだ何も気付いていないのだろうか。

だがたとえそうだとしても、それはクラウドが自分自身で解き明かさなければ意味がない。

今のエアリスが出来るのは、傍らでそっと見守ることだけだ。

「……きっと、大丈夫だよね」

自分自身に言い聞かせるように、そう呟き頷いてみる。

そしてベッドに座ると靴と上着を脱ぎ捨て、髪を解きそのまま仰向けに寝転がった。

今日も一日、色々あった。

でも、幸運にも今夜はこんな豪華なホテルで眠ることが出来るのだ。

偶然とはいえロープウェイの故障に感謝しなければ。

そして明日、またいつものように明るくクラウドに挨拶してみよう。

彼の過去に必要以上に踏み込むことは、今はまだ避けた方がいいような気がするから。

「……?」

ふと、部屋の中で一瞬の風を感じ、起き上がると何だろうと耳を澄ました。

ゴーストホテルと呼ばれるだけあり、まさか本物の幽霊のお出ましかと胸がワクワクする。

だが一瞬だけ感じた何かの気配は、またすぐに消えてしまった。

「…おかしいなぁ。確かに何か、感じたのに」

エアリスは首を傾げるとベッドから降り、裸足のまま窓辺に向かいそこから見える光景に目をやった。

真っ暗な夜空にきらびやかな乗り物の明かりが浮かび上がり、まるでそこは美しい夢の国だ。

すると先ほど乗ったゴンドラが目に入り、再び一人の青年の顔が胸に浮かんだ。

「クラウド…」

不安な心でその名を呟いた、その時。

背後に感じた人の気配に思わず緊張が走る。

「誰…っ」

だがエアリスが動くよりも早く、大きな影がエアリスの身体を後ろから強く抱きしめてきた。

「……俺ではなく、その名を呼ぶか。エアリス」

そして耳元で囁かれた熱い声に、ゾクリと背中が震える。

「この唇が奏でる名は、ただ一つだけのはずだ」

そう言って触れてくる指は手袋をしておらず、冷たい指がエアリスの唇から首筋へと静かに動いて行く。

「……セフィ、ロス……」

詰まる喉でなんとかその名を呼ぶと、セフィロスはやっと満足したように低い笑いを漏らし、白い首に唇を押し当てた。

ビクリと震える身体を愉しげに見つめながら、但し絶対にその腕を緩めることはしない。

「…いつ、ここに…?」
「おまえ達より一足早く。それからずっと、おまえを見ていた」

黙り込むエアリスに、セフィロスは続いて問いかける。

「…あの男が気になるのか?」

含みのあるその言い方に、エアリスの心が警笛を鳴らした。

今の彼の周りには、いつもとは全く違う邪悪なオーラが取り巻いている。

だが、ここにいるセフィロスはコピーではない。

不思議なことに、エアリスはセフィロスの本体とコピーをいつでも完璧に見分けることが出来た。

しかし本物ということは、今の彼はジェノバに心を支配されているということだ。

ジェノバは未だに、この星を滅ぼそうとじっとその機会を伺っている。

「何故おまえは、下等な生き物達と共にいる…?俺と一緒に来い。おまえを新しい世界の女王にしてやろう」
「…そんなの、いらない」

エアリスは逃げ出す機会を伺いながら、はっきりとセフィロスの誘いを拒絶する。

「人間を、そんな風に言わないで。…わたし、星を守るため、皆と一緒にいるの。だからこれからも、クラウド達と旅を続ける」
「……クラウド、か」

周りの空気が一瞬で凍る程に冷たくなった気がした。

セフィロスは不機嫌な感情を隠そうともせず、半ば馬鹿にしたように口元で嗤う。

「おまえは既にわかっているはずだ。奴の本当の姿をな」
「……何の、こと?」
「人間を助けてどうする?おまえ達セトラは、人間を助けその身代わりとなり滅んだようなものだ。これ以上あいつらを守る意味がどこにある。むしろ滅ぼす方が選択としては正しいはずだ」
「…違うよ、セフィロス。そんな考え、絶対に間違ってるし、わたしには理解出来ない」
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