これは、何と言う感情に近いんだろう。

絶望、だろうか。



この世界の事には飽き飽きしていた。
生きる事に絶望していた。
同時に死ぬ事にも絶望していた。
色映えしない毎日に意味は見出だせなく、存在している大人はろくでなしばかりだ。

役立ちそうな知識と術ならば何でも身につけた。

どれも大して面白く無かった。








キミに命を与えたのは、ボクだということになるかもしれないけれど
ボクに、生きる意味を教えてくれたのは紛れも無くキミだ。



キミと過ごして季節を知った。
知らなかった感情を知った。
世界に色があったのかと知った。




「ねぇギン。」


「うん」


「何でもない」


そう言ってクスクス笑うキミに、理由も無くボクの心は溶けて行く。



優しいキミの眼にはこの世界はとても綺麗なものに映っているに違いない。
日が昇ることに、風が吹くことに、葉の色が移ろうことに、雨露を浴びた草木が光ることに、

そして生きることに


どうしてこの世界を愛せるのか不思議ではあった
キミの眼から見える世界を一度で良いから見てみたいと思った。


こんな哀しくて傷付けあって憎み合う世界は無くなれば良いと思っていたのに。
潰してしまいたいと思っていたのに。
人を疑うことは当たり前だったのに。


そうなってしまっていたボクを、キミは変えてくれた。


消せない血の匂いに塗れ帰って来たボクを抱きしめて「無事で良かった」と泣くキミが居た。
こんなボクさえ、許してくれるのか。



抱きしめられる腕に力が篭ると、胸が一層酷く痛んだ。
上手く笑えなかった。




こうして汚れて行くボクがキミの隣になど居て良いのだろうか。
こんなに弱いボクが。
キミを簡単に泣かせるボクが。

力が、欲しいと。
キミを泣かせないで良い位強くなりたいと。


そして、キミから離れなくてはと、必然のように思った。





「ごめんな」


深い夜。白い世界。
作りの悪い小屋は隙間風が酷くて身体から熱を奪う。

寝息を立て深い眠りに落ちているキミに薄い布団をかけ直してやって、その髪を指で優しく梳かした。


こんなにも抱えるのが難しいだなんて、思っていなかった、なんて

狡い、言い訳だ 。



重い冬の戸を開け放してボクは振り返らぬよう出て行った。











END
乱ちゃんを置いていくことが、何より乱ちゃんを傷つけると、気がつかないギンちゃん。

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