その男の纏う深い闇に
裏に潜むその黒く危険な思考に
一体誰が気付いたか。




己のこの外観からか、それともその持ち合わせた技量からか、いや、その両方だろう。院では気味悪がられ煙たがられた。誰ひとりまともにギンを相手にはしなかった。
天才、などと勝手にまくし立てられて、進級、飛び級、簡単に約束される。

結局大人なんてものは理解しがたいものは見えないフリ、存在の拒否。早く視界から遠ざけたいのか。


別にそれが、辛いわけでは、ない。




「あーァ、ホンマに、つまらん…」

己の中の残酷な気持ちが叫びを上げ出す。何かをうんと傷付けたい衝動に駆られる。
やはり、そんな心を持ち合わせて居るから、疎まれるのだろう。承知したことだ。
人は自分が可愛い生き物だ。
自分に害なす可能性の有るものからは、遠ざかりたいのが当然だ。
ただ、

「おもろないわ…。」




「何してんのよ、そんなトコで」
突如我に返る。自分の寝転んでいた木の枝から下を見下ろせば、そこには少し不満げな顔をした、


「乱菊?」


そんな顔をしていたら、折角の可愛い顔が台無しだ、と心の中で小さく呟きながら、また姿勢を戻す。
「もうすぐ授業始まんで、早よう戻り。」
「何言ってんの、あんたもでしょー?」
顔見えなくなったギンに届くようにか、先程より少し声荒げて乱菊が言う。


「ほら、ボク、飛び級したやん?まだボクが入る組決まってへんのやて。」

どの組もボクみたいなん要らんのやろ、 少し自嘲的に乾いた声で笑ってみせたら、不意に腕に当たる柔らかな、もの。

ぎょっとしてそちらを振り向けば乱菊が自分の居る木の枝まで昇って来ていた。



「ギンの馬鹿。」

その言葉の内容よりも、碧く澄んだ瞳で真っ直ぐに見詰められた事によって言葉を失う。


「要らなくなんか、無いわよ。」
ぎゅ、手を握られて沸き立つような感覚に襲われる。

先程の黒い気持ちは何処へやら。
太陽の彼女によって消し飛ばされてしまった。





身動き取れなくなったギンの耳に、遠くから始業の鐘が届く。
ほら先生に文句言いに行くわよ、と強気な乱菊に、ギンは大人しく従うしかないのだった。








END
ギンが人っぽく居られるのは、乱ちゃんが居る時、、とかでも良いかもと思って。

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