久し振りに、同じ空間に。
決して全てに置いて居心地の良い空間だったとは言い切れないが
この自分を、認めてくれる者が、側に居た場所。
今更、もうそれが再び望める訳は無いとは理解している。
だから
せめて、一目だけ。
しかし、姿を確認出来るかと思った途端に
炎の壁に視界を遮られた。
炎に囲まれたところで、僕等の神が慌てる訳も無く。
至っていつも通り落ち着き払って笑っているので、
自分もそれに従って、静かに目を細めて霊圧を探る事にした。
ぐわり
「おっ」
一瞬に仄めき立つ霊圧に素直に驚いた。
予想して居たより、あの子は随分強くなった、らしい。
「どうした市丸」
盲目の男が己に言葉を向けて来た。普段は滅多にそちらから話し掛けてくることはないのに。
彼も同じく、久しく感じるかつての仲間の霊圧や存在に、何かしら思うところはあるのだろう。可笑しい現象ではない。
「いやあ」
ゴオオ、火の壁の勢いは止む様子は無い。
足元へ暫し目を落とす。
自分は心に思う事を隠して居た事は無いし、嘘も吐いた事は無い。
それを周りの連中がどう受け取っているかは知らないが。
「なんやえらい…イヅルが怒ってるなぁ思て…」
「心配か?棄てて来た部下が」
やはり今日は彼は饒舌だ。
何時でも少し出過ぎるのがこの人の良いところか悪いところか。
それにしても、
棄てて来た、か。
にまり口角を上げて炎の切っ先を見つめる。
確かにさよならも上手く言えずに、殺してやることも出来なかったのだから。
その表現は間違っていないかもしれない。
ゆらゆらと揺れる炎の先に呼応するようにゆらゆらと揺れている、霊圧。何と無く、それが美しいと感じた。
あの子の元に向かったのはアビラマか。
彼は少々血の気の多い所があるから、何か吹っ掛けられたのかもしれない。
少々の事で気を露にする事無い子だから、余程の弱みでも衝かれたのか。
だとしたらアビラマは達者だ。
一体何を突き付けたのだろう、可愛いあの子に。
二人、気肌は違うが、似て居るところもあって引き合わせたのかもしれない、等と一人心の中で呟く。
誰かに忠誠を尽くせる所、だとかが。
「いやあ…」
ゆらゆら、揺れる炎の先。
火に飛び込む蝶の気持ちが少し解る気がした。
危険だとは思い知って居ても、その魅力に身を投げずには居られない。
ゆらゆら、揺れるのは気持ちか霊圧か。
ゆらゆら、揺れるのは、一体誰の気持ちか霊圧か。
「元気そうで」
じり、炎を身近で扱う時の、独特の肌を焼くような感覚が頬を撫であげる。
熱さだとか、よりも。
ただ、こうして霊圧だけでも感じていられることが愛しい。
そして、そんな事を思う自分が、可笑しい。
一層笑み深めて炎の上、少し覗く青空へ視線逃す。
「何よりや」
きっとあの子は自分が知らぬ間に何かを乗り越えたのだろう。
もう、自分を頼り縋らなくても立てる程には、強くなったのだろう。
どんな風にあの子は成長したんだろう。
どんな顔が出来るように成ったのだろう。
自分の、知らない顔だろうか。
会いたい、そう思った。
会いたい、と。
ただそれを強く思った。
(総隊長さんも、無茶な事をしてくれたものだ。)
END
このサイトのきっかけ某ジャンプの36号掲載の鰤320話(の勝手な解釈捏造)
誰の霊圧だとかやっぱりわかるもんなんだな、とか。
悲しい話が嫌いなギンちゃんは、今後どう動くんだろう。
solitaryの意味は、ひとりだけの、お供のいない。孤独な、孤独好きの、寂しい。唯一の、たったひとつ。そして、隠遁者、世捨て人。