アンド、ユー?

□ミッシング・ピース
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風に吹かれた木の影がちらちらと光を遮っては照らし、揺れる。地面に反射した太陽のまぶしさに目を細めながら、反比例するように真っ暗な心の中をさ迷う。何かが足りない。あの日なくしたきみと一緒に私は、何か大事なものをどこかに置き忘れてきたのだろうか。


そこにあると思うからさみしいのだと、言ったきみを思い出す。かけてしまった、あるはずのものを知らず知らず求めてしまうのはとても自然なことなのだと。
そうだとしたら、全部なかったことにすればこのさみしさはなくなるのだろうか。きみと、きみのすべてを。

答えははじめから知っている。
どうしようもないつらさに立ち向かうのは苦しい。泣きたくなるけれど、どうしたらいいのかわからないけれど、逃げちゃいけないことだけは言い切れる。

今、この苦しみと向き合って、自分にある傷ときみにつけた傷をちゃんとさわって、痛みをかんじなければならないことだけはわかる。
そうしなければ、きっと私は私も知らない誰かになってしまう。痛みをなくした私には、なにも残らない。

いつかこの苦しみをちゃんと取り込んで、消化して、乗り越えられたときに私はきっと気づく。大切にすべきこと、なくしてしまったもの、すべてに。たとえそれがもう二度と手に入らないものだとしても、逃げずにいられる。きっと。

あの日飲み込めなかったきみの言葉がようやく今、すっと溶け込んでゆく。それはごく当たり前のように。
ああ、ずっとかけていると思っていたものは、私の中にあったんだ。


体中に浴びた太陽のあたたかさに、やさしさに心が震えた。涙がとまらないのは、まぶしいせいじゃない。
夏の終わりに私はやっと、なくしていた何かのかけらを見つけた。
だいじょうぶ、遅くなんかない。いつだって、遅くなんかないんだ。







 

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