アンド、ユー?

□fool to want you
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その手をとって、あの人のものになることはできた。深夜の間違い電話にも飛んできてしまうような人。なんでもないならいいんだってずぶ濡れになっても笑ってくれるような人。だけど、踏み出せなかった。
息を切らしへらりと笑うあの人を見て、ひどく抱きしめたい衝動に駆られたのは紛れもない事実なのに。わたしはあの時たしかに、この人をしぬほど好きだと思ったのに。
その資格がなかった。だから動けなかった。あの人を守るためにできることは何もしないことだと瞬時に悟った。だって資格がない。その手をとる資格が。抱きしめる資格が。愛する資格が。あの笑顔を向けられる資格が。
雨音がうるさい。頭の中が余計ごちゃごちゃになる。ぜんぶ雨のせいにして洗い流してしまいたかった。だけどそれすらできなくて、玄関に座り込んだままぼんやり操作した携帯で発信履歴とメモリを消した。あの人を守る方法が、これしかなかった。映し出された名前が涙で滲んで、やがてなくなった。






 

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