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□聖夜篇 万山*
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【早めのクリスマス】

今は店の中。
俺はかなり縮こまっていた。
なぜかって?

まず車が止まった場所。
来たことも無いような眩しいでっかい建物の前。
で、駐車場にも入れないし。
どうすんだ、こんなとこ止まって、なんて思っているとなんか人が近付いてきて助手席のドアを勝手に開けてきたし。
万斉当たり前の顔してるし。
「河上様お待ちしておりました」とか云われちゃったし。
イヤ、此方待たせてません、河上じゃないです、とか思ったのに、あれよあれよという間に万斉に引かれ、輝く建物に入っちゃったし。
車誰かが持ってっちゃうし。
カーペットの上進んでなんかこれまた眩しいエレベーターに入ってぎゅーんって上がっちゃうし。
気が付いたら、白いテーブルクロスが掛かったなんかテレビとか映画でしか見ないようなとこに座ってるしで。
にこやかな万斉が向かいにいるしで。

左見たらなんか夜景が凄いんですけど。
右見たら音楽が生演奏なんですけど。
下見たら煌めく食器が目に痛い位なんですけど。

なんてことでやっと状況把握出来たから。
把握しての俺の結論は。

制服着てる俺すっごい浮いてるぅぅぅうっ!!!!

だったから。
縮こまりもする訳で…。


今は給仕の人がグラスに何かを注いでいる。
薄い琥珀色の液体が緑色のボトルから流れてグラスの中でシュワシュワとはじけている。
いつも湯飲みとか百均のコップにしか縁のない俺なのにぃぃ!

次に前菜とか…前菜みたいなものがテーブルにのせられる。
俺はそれを置いた給仕の人に首を竦ませて会釈。
クスクスと万斉の忍び笑いが聞こえるし、給仕の人もニッコリしている。
なんか恥ずかしいぃぃっ!!
やっと給仕の人が去っていくと万斉がグラスを持ち上げる。
それにつられて俺もグラスを持った。
手が…震えるんだけど…。


「アルコールじゃないから心配ないでござるよ」


いやいやいや。
誰もそんな心配してないし!!


「ちょっと早いクリスマスでござるが…」


そう呟く万斉に目をやると、困ったように微笑んでいた。

*****

乾杯をして、料理を食べる。
これだけの行動に緊張したのは初めてだ。
…料理は美味しいけどさ。
俺は万斉を見る。
馴れた手付きがまた腹立たしい。
自分は正装のくせに。(色眼鏡とヘッドホンは変わらないけど)
俺には制服って…!
こんな店だったらちゃんとしてきたのにさっ!
…ちゃんとした服なんて持ってないけど。


「アンタ…」

「ん?」

「制服で十分って云ったじゃないか」

「それが?良く似合ってるでござるよ?」

「ちがっ、こんなトコだったら制服なんてダメだろ!」

「そんな事はないでござるが…?」


この期に及んでまだっ…!!
俺は囁く。


「あからさまにおかしいじゃないか!学生となんて!」


万斉は俺を見つめていたが何でもないように微笑む。


「大丈夫でござるよ」

「は?」

「予約の時に兄弟として予約したので」

「きょ…うだい…」


兄弟として。
それで給仕の人の視線が温かかったのか…。
あの人から見れば俺たちは大人の兄が社会見学のつもりで弟を連れて来た、的な感じに見えてたのか。
俺は安堵と共にやるせなさを感じる。
けど、仕方ないよな〜。


「ふぅん、そうだったのか」


俺はそう呟いて納得する。
料理はもうメインディッシュにさしかかっていた。

*****

大分ナイフとフォークの扱いに馴れ、食事がスムーズになった頃。
万斉がナイフを置いた。


「退」

「んン?」


呼ばれて料理から顔を上げれば。
此方を見つめる万斉と目があった。
いや、色眼鏡の向こうからだから確証は無いけどきっとそうだ。


「少し…早いが」

「ん?」


コン、と真っ白なテーブルに置かれたモノを見つめる。
…何、これ。
それは青い、箱。
青い…
箱…
これって…
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