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□聖夜篇 万山*
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【劇物】

ただの箱、のはず。
だが自分の頭には不穏なものが浮かんでしまう。
ま…まさか、ね?
ないよないよ、そんなベタな展開。
世界中の人間が認めても俺だけは認めない。
断固認めないぞぉぉっ!


「開けて…みては?」


万斉に囁かれ、俺は恐る恐る箱に触れる。


「え、………は!?」


俺は目を見開いた。
ゎ、訳わからんぞっ!
恐る恐る開いた箱の中に入っていたのは…カード。
なんかのカード。
デュ○ルマス○ーズとか森羅○象チョコとか銀魂とかのカードじゃない事だけは分かるけど…分からないカード。
いや、ちょっと安心したよ、本音言うとね?
あのベタな婚約〜とかじゃなくて。
考えてみればこの箱って四角いから。
平べったいから。
青色ってだけだから。
ってかそれだってあの…オール○ズの影響だから。
映画とかドラマ見すぎかな…俺。
でも、訳わかんないモノに変わりはなくて。
箱から取り出し、裏表とめくってみる。
なんだろ、これ。


「これ…何?」


カードを指先に摘み万斉に問いかけると。


「拙者のマンションの鍵でござるよ」


にこやかに答えやがった。
今日何回目かの万斉の「当たり前」にくらりと視界が揺れる。
鍵?
かーどきーってヤツ?
マンションって家のだよね?
万斉の。
行ったことないけど。
…はぁ?
これが何を意味するのか理解出来ない、と頭が信じ込もうとしている。
のに。


「拙者と一緒に住まないか、退」


万斉が留めを刺した。
俺は急いで箱にカードを戻すと蓋を閉じる。
劇物かのような扱い。
いや、俺にとっては劇物も劇物に違いないんだよ!
口が自然と開いて言葉を発する。


「す…む…?」

「退が良ければだが、どうでござろう」


どうでござろうって云われても…。
突然…云われても…。


「すぐでなくていいでござる。」

「ぅ…ん」


自然と返事をしてしまった自分が恨めしい。
万斉が箱を俺の手に握らせる。
俺より大きな手が心地よいなんて、思わない事にする。
俺は握らされた箱(中にはカードキーという名の劇物)を学ランの上着のポケットへしまった。
これでひとまず、この劇物処理は終わった。
とんでもないプレゼントを貰っちゃったよ…。

見計らったようにデザートがやってきた。

*****


発光ダイオードの信号がぼやけている。
外は霧か何かが出ているようだ。
車の暖房が頬を撫で、赤くなる。
車内なのにマフラーをしたままの俺は躰に溜まった熱を吐き出した。

*****

俺達は万斉の家に向かっていた。
食事を終えて車に戻った時に万斉が、「家の見学を兼ねてうちに来るか」と訊いてきたからだ。
流れ的に「うん」と返事をしてしまった。

*****

部屋の第一印象。
デカい、キレイ、モノがない。
だった。
万斉のマンションはデカい。
地下駐車場…デパートか何かみたい。

カードキー(劇物)初体験。
こんなんで開け閉め出来るもんなのか、いや、できちゃったけど。

部屋に踏み入れると。
玄関デカっ!
部屋、広っ!
モノがない!
なんかキレイだ!
ベッドデカい!
トイレ自動で流れるやつ!
風呂デカっ!
横綱三人は余裕だよ!
テレビ大画面地デジぃぃっ!
CDすごっ!
ここはレンタルショップ!?
ってな有り様で。
まるでバカンス先のホテルを見たような気分な訳で。
俺は一通り興奮の嵐で見ると、ふかふかのソファーに座る。
躰が沈み込みすぎず、堅すぎず、ほんと凄いんだけど!
万斉が隣に腰掛けた。


「どうでござるか、退」

「いや、すんごい、い…」


途中で言葉を切る。
ここで安易にほめそやすべきじゃない。
俺は咳をして誤魔化す。


「う、ん、まぁまぁかな…」

「ところで退」


万斉がズボンのポケットを漁っている。
今度は何なのか。


「これは、誰のでござる」


トン、と硝子の机に置かれたもの。
その物体に俺の目は釘付けになった。
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