3 Z

-新八サイド-
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もういいや。
隠すことに疲れてしまった。
今更言い訳とか、泣いてしまってはどうしようもないし。
変に勘ぐられて関係がギクシャクしてしまうのも嫌だから。
むしろ事情を話してアドバイスをもらった方がいい。
いつもは適当な人だけど、何だかんだでちゃんと話を聞いてくれてるから。
何だかんだで頼りにしてるから。
きっと何か助言してくれる。
うん、相談するつもりで話しちゃえ。
僕はそう暫く考えると銀八が寄越してくれたYシャツを握りしめ話し始めた。

*****


「ふぅん。」


銀八の第一声。
『ふぅん。』
…しかも。


「…何ですか、その顔。」

「その顔ってどんな顔よ?」

「それですよ、それ。そのつまらなさげな顔!」

「先生そんな顔してないから。」

「してますよ!」


顔が、物凄くつまらなさそうだ。
いつもの死んだ魚のような目が「ようだ」じゃ無くなっていた。
…なんでェ!?
一体どうしてよりによってこんな顔!?
引いて…るようでもないし。
ただただつまらなさそうな顔で。
僕の話はそんなにつまらなかったのか、いや、楽しませるつもりなんてなかったけども!
下らないとか思われてたり…うぅ、話すんじゃなかった…。

僕が後悔し始めた間にも銀八は二本目の飴を舐め始めた。

*****

つまらなくなんてない。
おもしろくないだけだ。
俺は飴を舐めながら思う。
新八には、つまらなさそうな顔だと言われたが、おもしろくないだけ。
新八にキスした沖田がおもしろくない。
俺の生徒で、珈琲担当で、新八なのにさ、勝手にキス。
まぁ、新八は俺のもんじゃないけど。
そして沖田よりおもしろくないのは新八。
状況説明、理由を話す、というよりは相談に乗って?的な話し方で話していた新八はキスされた云々の辺りで林檎のように頬を染めたから。
可愛いけどよ、腹立つんだな。

気持ち悪かった訳じゃない?
あの時は驚いたからで、沖田とするのが嫌な訳とかじゃなかった?
今ならわかるけど、あの時は答えられなかった?
これからどうすればいいのかって?

あ"ぁ----っ。
青春丸出しですか、乙女丸出しですかコノヤロー。
頬染めるな。
もじもじ照れながらとか。
マジ止めて。
こっちからしつこく聞いといてなんだがおもしろくない。
のろけ話聞かされた気分だし。
ってか寧ろそうだろ。
なにが悲しくて好きな子の、しかも本人の口から他人との恋愛話聞かされねーといけねーの。
いや、まぁ訊いたのは俺だけど。

俺はブラインドのおりた窓をちらと見る。
何、俺。
イイ歳して普通に嫉妬?
おまけに自分のもんでもねーのに。
青臭い新八に腹立てたり可愛いとか思ったり。
無駄に、大人だからとか教師だからとか理由にしてとろとろしてたら沖田にもってかれた、なんて。
どーなの、俺。

今だって、二人が上手くいくのは癪だがこっちから訊いといて知るか、なんてのもアレだし、新八は俺に期待してたっぽいし、やっぱ頼りにされてーし…なんて、中途半端に阿呆みてーな大人のプライドと馬鹿なガキの我が儘が同居しているから。
自分はどうしてぇのかわからない。
見た目は大人、中身は子供てな訳で。
こっちが混乱してるっつの。

俺は頭をかいた。

*******
さっきから銀八の行動がおかしい。
頭をかいて何か考える素振りを見せて…いるのかな。

あの…困ってるの僕なんですけど。

僕は首を傾げる。


「先生…?」

「ぁ〜…ぅん、そーかそーか。」

「え?」

「よーするに新八クンは沖田クンとの甘酸っぱい青臭い出来事で授業前半サボった訳か。」

「うっ…」

「そりゃ、ねーちゃんに云える訳ねーよな。」

「えぇ…まぁ、」


何なの、この人。
僕をからかってるような言葉だけど声がなんか真面目だし。
棒付きの飴なのにガリガリ噛んじゃってるし。
…わかんないや。


「なぁ新八、沖田の事好きなの?」

「は!?え、す、好きですよっ!?」


銀八の突然の質問に驚きながらも下腹に力を込め背筋を伸ばして答える。
僕も男だ、もう腹を括って堂々と…


「そっか、まぁ、そーだよな。見ててわかるわ。」


銀八はまだつまらなさそうにしながらうんうん、と膝の上に肘をつき首を揺らす。


「えっ、わかりますか!?」

「わかる、わかる。もろバレだって。」

「ぅえ〜…」


ヤバい、恥ずかしすぎる。
もう決心が揺らぎそうだ…いやいや!
恥は棄てろ、僕!


「なんで」

「は?」

「なんでザックリ「好きだ」って云えるんだ?」

「それは…一緒にいて楽しいし、かっこよくてドキドキするし...とにかく好きだなって思うんです。」


言いながら思い浮かべる。
あの人が僕を好きと言ってくれるなんて贅沢な話だなあと改めて思う。


銀八が立ち上がる。
ため息を一つつくとまた頭を掻く。


「それでいいだろ。」

「あ…えぇ?」


何がいいのか。
ため息と共に吐き出された言葉の理解が出来ない。
銀八が僕を見下ろす。


「だからそれ、伝えればいいだろ。俺じゃなくて一番わかってほしい奴に」

「ぁ…」


僕が口を開いた瞬間。
口に飴を入れられた。
飴の白い棒が目下に見える。
人工的な甘さが口に広がって苺味だとわかった。


「それやるから、頑張りなさいよ」

「ん…んん」


口から飴を抜き取る。
頭を撫でられて、なんだか子供扱いだ。


「あの…」

「ほら、もう校舎鍵かかる頃だぞ。お前荷物教室だろーが。」


僕はせき立てられるように立ち上がり部屋を出る。
というか押し出された。
銀八を振り返る。


「ダイジョーブだって。ダメだったら俺が慰めてやるから」

「なっ、いりませんよ!」


ヒラヒラと手を振りながら云う銀八に言い返し、僕は教室に向かって廊下を歩く。
引き戸がしまる音が聞こえた。

何だかんだでやっぱり銀八先生に話して良かった…。
大きな解決にはならなくても心を立て直すことはできたから。
そうだよ、当たり前の事じゃないか。
伝えないと、沖田さんに。
指に持った飴の紅色の気泡を見て、廊下の先を見つめる。
よし。
僕は口に溜まった甘い唾液を飲み込んだ。
*******

銀八は閉めたドアに背中を預け何故か着ている白衣のポケットに手を突っ込む。
指先に冷たい原チャリの鍵の感触。
もう飴はない。
仕方なく煙草を取り出して火を付け大きく吸い込む。
ため息と共に煙を吐き出す。


「…頑張りなさいよって、頑張らせてどーすんの、俺...」


銀八は暗くなった部屋に浮かぶ仄かな灯りを見つめて呟いた。


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