Silver Soul
□月下の夜叉
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…擽ってぇな。
むずがゆさに耳に指を入れて掻くと、愉しそうに高杉が笑い顔を離した。
銀時は上体を起こす。
…懐く----ねぇ。
「なぁ、俺は何?」
「………。」
「考えてたんだ。あの天人の血も赤いだろ、俺の血も赤いんだ。本当は手前達と違う、彼方の血じゃないのかって。」
「…白夜叉と恐れられる手前が随分と弱気だなァ。月にでも当てられたか。クク」
「ったく、白夜叉、白夜叉って。白夜叉の居場所は何処なのよ。」
「戦場だな。」
「じゃあ、それ以外の時はどうすりゃいいの。」
「怖がられてろ。」
「…其れは、どうなのよ?」
どういう意味なんだ。
確かに今でも白夜叉と呼ばれ、怖がられている。
疎まれ方は違えど、それは今も昔も変わらない。
高杉は、そんな存在でいろ、と云うのか。
「手前は白夜叉で居りゃアいい。周りはそんな手前を見て恐れ、頼る。」
高杉の足が草をなぎった。
「俺は人でないと?」
「そうだな…人じゃねェ。周りにそう思わせるのも、いい。」
「…高杉は俺を人だと思ってんの?」
ゆっくりと振り向いた高杉が笑う。
手前は勿論人だ、と。
「ただ大概の奴はな、神や仏を崇め頼るが、怖れてもいる。可笑しな話じゃねェか?頼どころにするものを怯え怖れるんだ。」
「罰が当たるかもってか?」
「さァて、なァ。助けてくれ、災難から守れ、っても、一つ転がりゃ神さんを化け物扱いすんだ。人は勝手だ、理解できないもの、強い力を持つものを怖れる。」
「高杉は違うのかよ。」
「……だから手前は其れになれ。周りが倒れても手前だけは変わらずに居ろ、手前はあれらの頼どころであり、脅威。」
"手前は人で、白夜叉で、化け物だ。"
銀時を見つめ、高杉が呟いた。
その口元は笑っている。
片方だけの瞳は、銀時を視ている。
銀時の中の夜叉を視ている。
焦がれているような、それでいて怯えの色を含んで。
高杉は片目を失ってから、"銀時"と呼ばない。
"手前"、"白夜叉"と呼ぶ。
「…そんな白夜叉に懐かれんのは、ありがてェなァ、オイ。」
立ち上がりながら、クククと笑う。
「月がたけェ、今日は疲れた。戻ろう。」
歩き出す高杉について行く。
飯食って、寝る。
少しだけ。
明日はまた、戦なのだから。
ヅラに小言を云われるかもしれない。
坂本がうざいかもしれない。
周りは、不審がり怯えるだろう。
『…手前は其れになれ。周りが倒れても手前だけは変わらずに居ろ、白夜叉。』
高杉。
なぁ、たかすぎ。
お前は俺を人だと云った。
俺には人の血が流れてる。
お前は俺の声を聞き取った。
だから。
周りが其れを望むなら。
お前が其れを望むなら。
異形さから。
恐れられ疎まれ。
怯えられても。
望まれる限り。
お前が求める限り。
"俺は人で、白夜叉で、化け物だ。"
了