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□聖夜篇 万山*
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【予定とヨテイ】

学校を出て一つ目の信号で止まったときに万斉が口を開いた。


「退、24日の事なのだが…」

「24日?」


俺は首を傾げる。
24日、クリスマスは1ヶ月も前から予定している。
万斉が。
まだ11月もやっと後半に入っただろう時にもう予定していたから。
万斉が。
それを此方に一方的に告げてきたから。
万斉が。
紳士なんだか強引なんだかわからない。
開けとけ、と優しい言葉ではあったが当たり前のように云ってきたから。
それを今何故切り出すのか。


「あの日は…緊急の予定が入ってしまったでござる。」

「え…」


思考が固まった。
キンキュウ?
ヨテイ?
なんだ、それ。
予定って、予定だよね。
俺と過ごすって、予定だよね。
じゃ、ヨテイってなんだよ?
キンキュウって…。


「だから…24日前後は会えないでござる。」

「その…キンキュウって…ずらせないの」

「…申し訳ないが…」

「……」


いや、謝られても。
別に、平気だし。
うん。
アンタのヨテイなんか知ったこっちゃないよ、俺は。


「明日、19日に少し早いでござるが、繰り上げようと」

「繰り上げ…!?」

「っ、イヤでござるか?」

「イヤって云うか…」


繰り上げ…。
そんなの…困るっちゃ困る…。


「……」

「……」


沈黙が続く。
お互い何か考えている。
車のエンジン音だけが鳴っていた。
そのうちに俺のアパートまで着いた。

*****

俺は一人暮らしをしている。
両親はもう居ないから。
居なくなる位なら退なんて名前をつけないでほしかったのだけど。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
俺は車を降りる。
助手席のドアを開けに降りようとした万斉を遮って自分でドアを開け、降りた。


「退、」


車から俺を見上げる万斉にわかった、と返事をする。


「わかったよ、19日でいいから。予定は変えなくていいんだよな?」

「いいでござるよ、家には20時頃迎えに。」

「了解」


お休み、と云う万斉は俺がボロい階段を上がり完全に家に入るのを見届けて去っていった。


「っ、くっそ〜…」


鍵をかけ、荷物を置き、俺は悪態をつくと明日の為の支度を始めた。

*****

で、次の日の12月19日。
学校からチャリで帰って家で待っていると。
20時少し過ぎに玄関の戸をたたく音かして。
ドアノブを回して開けると、顔をしかめている万斉。


「…何」

「退、危険でござろう」

「は?」


万斉の開口一番の説教にポカンとする。
そんな俺に更に顔をしかめる万斉。


「拙者だったから良かったものの、知らない男だったらどうする?」

「はぁ?」

「ここはチェーンもインターホンも付いていないのに確かめもせずに開けると」

「万斉っ!」


俺は万斉の説教を止め、万斉を睨みつける。


「うるさい!アンタに説教されたくないからっ!」


万斉はムッとした表情で室内に入ってくる。
機嫌を損ねたかな。
まぁ…だからって何とも思わないけど。
ってか、寧ろ気になってるのは…


「店なのに本当に制服でいい訳!?」


制服なのだ。
万斉に制服で十分だと云われたため靴下だけは履き替えたが、制服のままなのだ。
俺は確認の為再度万斉に訊く。


「いいでござるよ、十分。」


良いのぉぉっ!?
当たり前のように言ってのける万斉。
自分は正装のくせに。
まぁ…どんな店に行くのかなんて訊いてないからわかんないけど、本人が大丈夫って云ってるからいっか。
大した店でもないのだろう。
ならいいや、とマフラーを巻き付け先に部屋を出ると、


「早くしろよっ」


まだ室内にいた万斉に声をかける。
鍵が閉められないっと文句を垂らして鍵をかけ階段をおりて。
学校へ行くのとさして変わらない感じだよなぁと思いながら、俺たちは車へ乗り込んで出発した。
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