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□風薫る季節
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サワサワサワ...
サワサワサワ...
木々の葉を揺らして柔らかな風が教室を通り抜ける。
暖かく心地よい風の中、午後の授業は古典。
腹も満たされ、経のような声はまるで眠りに誘う子守歌のようで。
周りにはこの最高の環境に耐えられず頭を垂れる生徒が続出している。
銀時も例外ではなかった。
ただ銀時の場合、眠りに抵抗しようとはせず、組んだ腕に頭を預けて完全に睡魔を甘受していた。
「んぁ〜…きもち……」
重く垂れ下がった瞼の隙間、トロトロと溶けそうな瞳でそよぐ葉を眺める。
(緑…色…キラキラ…お日様…ポカポカ……)
こんなとき、無意味に口をムニャムニャとすると気持ちがいいのは何故だろう。
特に飴玉を口に含んでいるときは、例えば右頬に置いといて、反対に移動させたとき、右頬の粘膜に飴の味が残ったりする。
それをムニャムニャすると何か得した気分になるのだ。
案の定、銀時は三時のおやつとかこつけて口内に飴をいれている。
(風…そよぐ…俺満足……お休みなさい……)
「坂田 銀時。」
パコーーーン!
瞼を閉じた瞬間、頭にサディスティックなまでの衝撃を受けた。
ふわふわと綿菓子のようだった銀時の脳は一気に塊に戻る。
「いっってぇ!」
涙目で躯を起こせば周りからのクスクス笑いを受けた。
「何すんだよ、突然!」
「授業中に居眠りこく手前が何やってんだバカヤロー」
見上げた隣には古典の教科書を丸めて立つ担任がいた。
坂田 銀八。
銀時の担任であり兄である。
銀時には何故この男が教師になれたのかが不思議でならない。
この兄がなれるなら犬でもなれそうなものだ。
「PTAに訴えるぞ、このポンコツ教師!」
「先生がポンコツなら手前はゴミだー。第一授業中に堂々と居眠りして怒られたからって悪いのは手前だからな。然も飴まで食いやがって。出せ。」
「手前のタラタラした声が眠くなるっての!飴なんか出せるか!」
銀時は口の中で飴を噛み砕いた。
「そぉかー残念だなー銀時は留年かー。」
そう云ってわざとらしい溜め息をつき教壇に戻る銀八に小声で悪態をつくと銀時は頬杖をついた。
自分たちが兄弟と云うことは周知の事だが、学校で銀八を兄と呼ぶことは禁止されている。
理由を訊いたら「恥になる」と云われた。
確かに銀時は頭が良いわけでもなく、素行が良いわけでもないが、弟に対してあんまりな扱いだと銀時は憤慨した。
そんな銀八だって…いや、男女共に妙に人気があって、慕われているがしかし、他の教師に比べたら勝手気ままだと銀時は思うのだ。
それでも咎められず飄々と上手に生きるあの兄に。
全てにおいて銀時は劣っている気がしてならない。
(だからアイツは嫌いなんだ)
銀時は勢いで噛み砕いてしまった飴に未練たらたらで、悔しくて古典の教科書の一ページを破りとった。
(これで紙ヒコーキを作って飛ばしたろなんて幼稚な考え)
そう思っても銀時はささやかな反抗に胸が疼いた。
「銀時っ!」
「あ?」
囁かれ顔を上げると前の席の桂が顔をしかめていた。
紙ヒコーキ完成間近。
それを見て更に顔をしかめる桂。
「貴様何してるんだ!馬鹿!」
「何って、紙ヒコーキ?」
囁きながらも声を荒げる桂に完成したヒコーキを見せつける。
何故桂が怒るのかわかっているが銀時はわざと見せつけ焚き付ける。
(おもしろいから)
「さっき怒られたばかりだろうが!また頭を叩かれたいのか!?」
「うっせーよ、ヅラ。お前が騒がなきゃバレないんだから。」
「ヅラじゃない桂だ!教科書を破るなどどうかしてるぞ銀時!」
「あーハイハイ。どうせ俺はどうかしてますよーブイーン」
銀時はピッと飛行機を放った。
しかしペラペラの紙で作られた飛行機はヘロヘロと降下し不時着した。
(つまらない……)
自分のささやかな反抗でさえ上手くはいかないのか。
「フンッ……もう知らないからな!」
ヘロヘロと落ちた飛行機を見て桂は顔を正面に戻した。
(別に知らないでいいけれど……)
銀時は腕に頭を乗せ桂を見上げた。