3 Z

□蝉鳴く季節*
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「ヅラー帰ろうぜー」

「あぁ、悪い銀時。先に帰ってくれ。」

「何、なんかあんの?」

「うむ…まぁ…」

「ふぅん、じゃ先帰るわ。」


銀時と桂は別れると、銀時は校門を抜け、桂は校内に戻ってくる。

銀八はそれを見届けカーテンを閉じた。

******

国語資料室にいる銀八の耳に上履きの音が届く。

足音は銀八のいる部屋で止まり、軽いノックの後ドアが開いた。


「先生、何ですか。」


入ってくる桂に鍵を掛けるよう云って銀八は立ち上がる。


「先…っ!」

「先生は止めろっつったろ?」


云いながら、細い手首を掴む。


「っ…」

「銀八ってよ…ほら…昔は呼んでたじゃん?」

「でも…今は…」

「こんな関係になっても生徒と教師ってんじゃねーだろーな?」

「あっ…」


掴んでいる手に力を込めキスをすると顔を逸らす様子に苛とする。

(名前で呼ばず、キスも拒むのか)

強く吸うと桂の躯が跳ねる。


「銀八っ…今日は違うだろうっ…!」


押しつけていたドアが軋むと桂が怒ったように腕を振りほどいた。

(力がついたもんだ)

まぁ、名前を呼ぶから許すかと銀八は大人しく離れた。


「俺は、話があると云うから来たんだ。こんな事なら帰るぞ!」

「話ならあるから。」

「なら早く話せ。」

「まぁ…そう焦るなって。」

「あっ!」


桂の躯を持ち上げ、ソファーに押し倒す。

(やはり躯は軽いまま)


「銀八!」

「ちょっと、黙った方がいい。俺怒ってるから。」

「え…?」


固く狭いソファーに倒れる桂の上にのしかかると眼鏡を押さえる。

(俺は怒ってるんだと云ってもこれは一方的な事)

下にいる桂は困ったように見上げている。

(警戒心がないのは昔から)


「何を怒るんだ?」

「わかんない?」


桂が真面目くさった顔で頷く。

確かに本人はわからないだろう。

(何年経っても俺の性格を理解しないのはする気がないの?)

銀八はサラサラの髪の毛を掴んだ。

桂が小さく声を上げる。


「何をっ…」

「髪の毛。アイツに触らせたよな?」

「は…?」

「銀時に、あの馬鹿に髪の毛触られただろ?」

「馬鹿って…弟をそんな風に」

「コタはさ…っとに、よぉっ!」


パンッ。

乾いた音が狭い部屋で響く。

銀八の手はジンと痺れ、桂の頬は叩かれたせいで赤くなりだし。

叩かれた桂は茫然と銀八を見上げた。


「なんで、触らせんの?」

「べ、つに…触らせた訳じゃ…何をそんなに…」

「小太郎はさぁ、銀時が好きだもんな。」


瞬間、桂の顔が朱くなる。

(今も変わらず好きなんだね)


「だから、触られて嬉しかったんだろう?」

「嬉しいだなんて…関係ないだろう!」

「だから銀時の代わりの俺にいじられて善がるんだもんな?」

「ちがっ…」


桂は途中で顔を逸らす。

(否定しきれないんだかんな)


「変態だよな、小太郎は。」

「っ…」

「弟の代わりに兄貴を使うんだもんな、淫乱な子だ。」

「そんなんじゃっ…ない…」

「そんな顔して、あん時もさ……覚えてるだろう--------?」

******

夏の暑い日だった。
蝉がえらくうるさかったのを覚えてる。

銀八はまだ新米の教師だった。
周りは夏休みで、剣道部の顧問に割り当てられ、暑苦しい練習場から帰ったときだった。


『…?コタ?』

『っ…!ぁ…』


家の前に小太郎がいた。

桂 小太郎は銀時の幼なじみで小さい頃から知っている。
銀八はコタ、と呼んでいた。

中学二年生の小太郎は今が一番の遊び盛り、銀時なんかは馬鹿な位遊びに興じていたが、小太郎は少し天然だが相変わらず真面目な子供だった。

中学になって身長が伸びたがまだ線は細いままで、銀八の肩位の位置。

可愛いとほめそやされていた顔は綺麗だと云われるようになっていた。

肩までの髪の毛もサラサラとして、女の子みたいだとからかわれる事もあったが銀八は綺麗でさわり心地が良く、頭を撫でるのが好きだった。


『どした?』

『いや…別に…』

『ん?』


スクーターを留めて顔を覗くとフイと反らされ、あ、反抗期か?と思ったが涙の跡を見てドキリとした。

小太郎はあまり泣かない。


『…ウチにおいで』


肩に触れ囁くと、小太郎は頷いて家に上がった。


『麦茶でも飲めよ。』

『…うむ……』


麦茶を受け取りチビリと飲む小太郎は汗をかいていて、だいぶ外に居たらしい。


『シャワー浴びる?銀時の服貸すけど。』


小太郎にとって此処は我が家のようなもので泊まる事もあるため、銀八はタオルを持って云った。


『…銀時の服なんか、着たくない……』

『……アイツと喧嘩したの?』

『………』
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