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□海星
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海星




「おぉー!!」


目の前に広がる光景に近藤は声を上げた。

すがすがしい空は秋晴れ。
秋めいた暖かな風。
それは磯の香りを含む。
そして広がる緑の海。

裸足になり駆け出すと、近藤は子供のように歓声を上げる。

土方はその姿を見つめながら、潮風に鼻を鳴らした。

そんな土方に両手を振りながら、


「秋の海なんて初めてだなぁ、トシィ!」


と満面の笑顔の近藤。

土方は片手をあげてかえす。

9月4日は近藤の誕生日。

土方と近藤は放課後、鈍行に乗ってなんとなし海までやってきた。

この時期では、泳げる訳もなく、人もいない。

本当に来ただけ。

それでも楽しそうにはしゃぐ近藤に土方の表情も和らぐ。


「トシ、来て来て!」

「んだ?」


近藤の呼びかけに従って土方は近づく。

砂地に大男が小さく縮こまっている姿は不自然。

近くによると一心に下を見ていた。


「なんだ?」


隣からのぞき込むと、べとっとした物があった。


「これ、海星か?」

「やっぱり?」

「だろうな…なんでこんなとこに…」

「さぁ…初めて見たなぁ…」


近藤は海星をじっと見つめる。

その顔はひどく真剣で。

一心に見つめるものだから、土方はあるものを彷彿とさせた。


「近藤さん、ガキみてぇ…」

「え!?どーゆー意味!?」

「アリの行列見続けるガキとかいるだろ、アレっぽい。」

「えぇー…勲嬉しくない…」


海星を指に摘みながら眉を寄せる近藤は


「トシ、パスッ!」


突然土方にそれを放った。


「ぅ、わっ…」


ぼすっ、と胸元に当たった海星に土方は微かにビビる。

湿った砂がパラパラと胸元から落ち、投げつけられた海星は砂まみれでじっとしていた。


「ビビったろ、トシ。」

「……」


してやったり顔の近藤を見下ろす。
土方は目を細めると肩に手を置いて屈んだ。


「近藤さん、」

「ん?ぁ…ト…」


近藤の躯が揺れる。


「ン…ふ、」


合わせた唇の隙間、甘い息を零す。

波の音が耳に心地良く。

土方の手が近藤のシャツにかかる。


「ァ…トシ…ゃ…う?ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」


叫ぶ近藤が跳ね回る。
青褪めた顔でシャツを弄っていると、ボトリと砂地に落下したモノ。

海星。

腹の辺りに砂と湿った感覚が残る。


「ビビったのかよ、近藤さん。」


見上げれば意地の悪い顔で土方が見下ろしていた。


「あ…ひどっ!トシ、大人気ない!普通服に入れないよね!?」

「さぁ、海星が勝手に入っちまったんじゃねーのか?」

「違う違う!分かり易いから!」


近藤は海星を摘むと、こんなモノっ!と云って海へ放った。

ぼちゃん、と水音を立てて海星は消える。


「近藤さん、八つ当たりかよ。」

「違うからね!自然に帰しただけだから、アレだよ、浦島太郎的な。」

「日光浴の真っ最中だったかもしれねーだろう。」

「ぃゃ…ぅー…トシが悪いんだぞ!」


やっぱり悪いことをしたかも、と思った近藤は土方のせいにしてごまかす。

近藤は座り込むと砂浜に星を書いた。
海星のつもりで。

いじいじとする近藤の肩を土方は叩く。


「近藤さん、」

「……ぃじゎる…」

「わかったから、砂に書かなくていーって。…ほら、」


振り向いた近藤が砂浜を見て笑顔になる。
それは自然な顔の動き。


「トシ〜、」


砂浜には"誕生日おめでとう"と書かれていた。


「ありがとう、ありがとう!」


これで喜ぶ近藤が可愛い。

これだから、土方は近藤が好きだ。
もう一度キスをする。


「おめでとう、近藤さん」




プレゼントが買えなかったのは
秘密だ。



end
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