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□カルキイエロー*
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薄いカルキの匂い。
暖房がきいているのだろう、裸でも暖かい室内。
床は乳白色の大理石で、照明の明かりを柔らかく反射させている。
個人の所有物とは思えない大きさ、50mプール。



カルキイエロー



「…すごいですね!?」


新八は興奮気味に後ろの銀八を見た。


「え?…あー、そぉな。アイツんち何でもかんでもデカいから。」


便サンに短パンTシャツ姿の銀八は眼鏡が曇るのか顔を扇いでいる。
大きな浮き輪を抱えて。
銀八も自分も、この現実離れした空間には不釣り合いな程庶民派。

・・・僕がこんな所に来るなんてなぁ。

新八はもう一度この煌びやかな現実を見回した。


「はぁー坂本先生ってほんとのお金持ちなんですね。あんななのに。」

「…ボンボンだからな、あんなでも。次期社長だからな、あんなのでも。」


スラッと失礼な事を言う二人がいるのは、坂本所有のプライベートプール。

銀魂高校の数学教師であり、次期海援隊社長である坂本辰馬から貸し切った。
貸し料は、スナックすまいるのおりょうの写メ。
このように安くついたのは坂本がしつこいセクハラのせいで写真を撮ることも禁止されていた自業自得のお陰だ。


季節は冬真っ只中。
こんな時期にプールなのには理由がある。

銀八は思っていた。

今年の夏は最悪だったと。


教師と生徒という関係でありながら、恋人である新八との初めての夏。

祭りや花火を一緒に楽しむ予定だった。
夏の暑さの勢いで熱帯夜を濃密に過ごす予定だった。

だが、銀八を待っていたのは一人、扇風機の生暖かい風を受けながら汗をかき、モスキートと闘う都会アマゾンの夜だった。

銀八は夏休み返上で仕事に追われ、新八も勉強にバイトにと多忙な毎日。
やっとの休みで会ってもお互いヘトヘトの夏バテ。
今週遊ぼう、来週遊ぼう、いつか遊ぼう・・・そう言って気付けば夏は役目を終えていた。

そのまま秋が来て、新八はテスト勉強、体育祭、文化祭で時間がない。
ということは銀八もそれらに忙しい訳で。

夏の二の舞を踏んだ。

恋人として、大人として新八の青春をこんな感じで終わらせるのはダメ。
第一、銀八が不満だった。

そこで、銀八は決めた。

今からでも夏を取り戻す。
冬だけど、直ぐにでも雪がぱらつきそうだけど。
まずはプール。

海はキツいから温水プール。


「お、酒あるじゃねーか。」


プールのくせにバーカウンターがあり、そこに並ぶ酒を銀八は吟味する。
元々坂本が女の子と遊ぶために用意したようなもので、キッチンまでついている。


「新八〜」


プールに向かって声をかける。
いつもの様子とは打って変わって水を得た魚のごとくクロールをしている新八。
眼鏡の代わりのゴーグルがきらめいている。

ため息を一つして、銀八はプールサイドに近付く。


「そんなガシガシ泳いでないでさぁ、こっちで何か飲みなさいよ。」

「ぷはッ・・・や、銀さんこそ泳ぎましょうよ。」


銀八は久しぶりに呼ばれた"銀さん"にうずっとする。

初めてエッチをした後に、二人で居るときは"銀さん"と呼ぶ様に決めた。
"先生"も妙に燃えたが、教師生徒の関係をいちいち念押されている気がして、お互い邪魔臭かったからだ。
恋人なんだから、名前で呼びたい。
恋人なんだから、名前で呼ばれたい。


プールから上がった新八はプールサイドに座り、ソーダを飲む。
パチャバチャと脚で水を遊ばせる新八と一緒に銀八も脚を遊ばせながら缶ビールを開けた。


「新ちゃんさぁ、なんでそんな本格的なの。」

「え?」

「体育の水泳じゃないんだから、ゆっくり浮いてなさいよ。」

「それを言ったら銀さんこそ、」

「俺、カナヅチだから。」


そう言いながら、新八を見る。

透明感のある白い肌が水を弾いて磁器のように艶やか、焦げ茶の髪はしどけない項に貼り付いている。
柳腰、華奢な肢体、それでいて、モロくない、キュッとした控えめな尻。

うずうずとする銀八の本命はこっちだ。

そんな銀八の視線に気付いた新八。
あまりにジロジロ見られるので少し照れた。
その顔で銀八にスイッチが入る。


「銀さん?」

「そんなことより新ちゃん、」

「え?」

「・・・気持ちいいことしよーぜ?」


新八を後ろから羽交い締めにすると、耳元で囁く。
敏感な新八の体が跳ねた。


「俺が泳ぐためだけにここに来た訳ないだろ。」
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