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□いちごみるく飴
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;いちごみる飴;


銀八には似合わない、生徒指導室。
煙草の煙が部屋を白くする。

黄ばんだクリーム色のカーテンは閉め切られ、暑苦しい熱気がこもり。

クーラーの壊れた部屋、団扇を扇ぎながら銀時は煙を吐き出した。

ギイ、ギイ

銀八以外から音が発される。
それは回転椅子を揺らす音。

ギイ、ギイ


「ねぇ、センセイ。」


どこか甘えたような声は。
一つ転がれば人をくったような声音。

ひどく、耳障り。

銀八の目は吐き出した煙を気怠げに追った。


「お前に先生って云われる覚えはないケド?」

「クスクスクス」


突き放すような態度をとられても、相手は面白そうに笑う。

ギイ、ギイ

揺れる、三つ編み。
ピンク色の髪が、一昔前の族的な学ランに映える。
そして、


「いつ、ヤってくれるの?」


なんて事を口走るのは、格好以上に頭がイカレテイルからだろう。


「今時流行らねーって、その服。」

「服の事はいいよ。さぁ、センセイは質問されたら答えるもんだろう?」

「先生はお前の先生じゃないから答えない。第一なんでそんな話になってんだよ。」

「あの日約束したじゃないか。」

「そんなキモいプロミスした覚えねーから。」


あの日とは、このイカレタ子供、神威が銀魂高校に乗り込んで来た日のことだ。

それは今時古い、殴り込み。


『悪いけど、この学校で一番強い奴連れてきてよ。』

『なっ…テメ誰だ!』


風紀委員の土方が威嚇するように唸る。

神威の後ろにいる野性的な男がだるそうな声で呼びかけた。


『隊長、あんま挑発しないでほしいんだけどね。』

『煩いなぁ、阿伏兎のバカ』

『ばっ…後が面倒だっての!このすっとこどっこい!』

『で、強いのはどいつ?』

『…っ、何勝手云ってやがんだ!』


こんな調子で、騒ぎは拡大していき、何故か始末を銀八に押しつけられた。

まぁ、土方はウチの生徒だから、と銀八ものらりくらりと現場に向かい。

人だかりを割って騒ぎの中心に


『あ〜ハイハイ、』


似つかわしくない態度で割り込んだのだ。


『銀八…!』

『ちょっと多串君さ、退いといて。お前入るとややこしいから。』


目の前の闖入者にニコニコと笑い顔の神威は片眉を上げて笑みを深くする。


『この学校で一番強いのは、センセイなのかい?』

『いや?俺はただの国語教師ょ。』

『そう、なら退きなよ。俺は弱い奴には興味ないんだ。』


銀八は口元を歪めて笑うと、土方の前に立った。


『ぎ…』

『偶然だな、俺もてめーらになんか興味ないのよ、ほんと。』

『……』

『ただ、俺コイツの担任だし、他の奴にチミたち押しつけられちまったから。』

『……』

『出てってくんなぃ?今時流行んないから、お前ら漫画の見過ぎ。』


タッ

瞬間、神威が消えた。
というよりも、素早い動きで周りは見えなかった。
気付けば、銀八、土方の後ろにいた。

皆が息をのんで見守る。


『弱いくせに大口叩くなよ、センセイ』

『銀八っ…』


かちゃん、と軽い音を立てて銀八の眼鏡が落ちた。

土方が心配そうに声をかける。
しかし、銀八は相変わらずの調子で口を開いた。


『なぁ…お前の顔、何?』

『……』

『?…隊長…って、ブッ…!』


動かない神威に近付いた阿伏兎が吹き出す。

神威の顔が見えないギャラリーはざわざわとし、顔を見た方では吹き出すものが続出した。

土方は神威と銀八をウロウロと見返す。

ニヤニヤとした銀八の手には油性マジック。

神威の顔には"ウンコマン"と小学生の落書きのようなものが書かれていた。

あの瞬間に銀八は書いたのだ。


『……センセイの癖にやるじゃないか。』

『センセイだからな。』

『今日の所は退散してあげるけど…、またくるよ。』

『来なくていーから。』

『でも、次からはアンタをヤりにね。俺はセンセイが気に入ったよ。』

『はいはい、何でもいーから。帰りなさいって。』

『約束だからね。』


そう告げて、阿伏兎を従え神威は去っていった。
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