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□俺の人生最後の日
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今日って日を大切に生きよう。
なぜなら俺は明日死ぬからだ。


俺の人生最後の日


沖田総悟、齢18にして死ぬなんて神様もあんまりだ。
なんて悲観はしない。
近藤さんより先に死ねる。
姉上のところにいける。
二人には怒られるかもしれないけど、俺は少なからずこの不幸を喜んでいる。

沖田総悟が地上にいる最後の日、今日。
大切に生きよう、とか云っておきながら何をどう大切にするのか。
そもそも大切ってどうすんだ。
自分のしたいことをする?

食べたかったものを食べる。
…特にねぇや。
行きたかったところに行く。
…やっぱり特にねぇんだなぁ。

一体最後の日ってどう過ごせば…。
考えれば考えるほど面倒臭い。
俺に最後の日、今日は必要ないかもしれない。


「あら、総一郎くん。」

「…旦那、総悟です。」

「そーだっけ?」


人生最後の日に道で会った知人に名前を間違えられるなんて斬新かも。
彼はいつも斬新な男、坂田銀時。
そういえば、今日の彼は一段とだらけて見える。
新しい気持ちで見ると、本当に斬新な生き物だ。

なぜ、銀髪なんだろう。
紅い瞳はどこの血だろう。
どうしてあれほど強いんだろう。
どんな人生を歩んできたんだろう。
彼はなに型で誕生日はいつなんだろう。
そもそも彼は幾つなんだ。
甘いものしか食べてないようなのに、このしなやかな筋肉はどうやって維持されているんだろう。
真選組にもここまで体躯のいい奴は少ない。
何か秘訣でもあるのか、やっぱり超人的な何かしらがあるのか。


「…沖田くん?何、どうかしたの?」


目の前の斬新な生き物が俺を覗き込む。


「どうして天パーなんですかぃ?」


つい口をついて出た。
彼は一度瞼を閉じてパチリと開く。
睫毛も銀色なのか。


「けんか売ってんの?」


そう、彼は天パーがコンプレックス。
忘れていた。


「いや、けんかする気なんてさらさら、毛ほどもねーでさぁ。」

「さらさらぁ?毛?何、ほんとにけんか売ってんのかよ。」

「そんな、気にしすぎでさぁ旦那。」


つい、毒を吐いてしまうのは癖だ。
だけど本当に今、彼とけんかをする気なんてない。
という気持ちを込めて笑顔をみせても疑惑が深まるなんて。
俺の人生、どうなってんだろうか。


「本当ですぜぃ旦那。…それよりちょいと散歩しやせんか。」

「は?」

「お忙しいなら断ってくれてかまいやせんが。」


この場合、大抵彼は断る。
お忙しくなくても断る。
だけど人生最後の日を生きる俺は何か醸していたのか、彼にしては珍しく付き合ってくれるらしい。

二人で道を歩く。
全く一体最後の日に特に付き合いが深くもない男と無言で道を歩くなんて俺も物好きだ。
だけど隣にいる俺より大きな彼の気配は不思議と安心できる。
なんだか、近藤さんにも土方にも云っていない事を云ってしまいたくなった。


「俺ねぇ、旦那。」

「んー?」

「明日、死ぬんでさ。」


流石に唐突すぎた。
彼は立ち止まって俺をまじまじと見てくるのだからこそばゆい。
俺が笑いかけて歩き出すとやっぱり隣に彼は来てくれた。


「それで最後の日、つまり今日をどう生きようかって考えながら歩いてたんだけど、どうも世間一般の最後にやることがなくって。」

「…‥」

「俺ってこの世にあまり欲求がないってことに気付いちまったんでさ。食べたいモンも行きたいトコもない…そしたら旦那に出会ったんでさ。」

「…で?あの暴言?」

「それは旦那を新鮮な気持ちでみた結果で。俺って人間にまで興味がなかったんでさぁ。斬新だぜ、旦那は。」

「…俺もお前が斬新に見えるわ。」

「そうですかぃ?じゃあお互い初めて相手をまともに見たってことか。」


彼は首の後ろをさすって、アアだかウウだか云いながら前を見ていた。
俺も前をみて歩く。
まともに見るってのは意識的な意味なんだってのを体現してるみたいだった。


「じゃあ旦那、旦那のことを教えて下せぇよ。」


俺の言葉に流石にまゆを寄せる。


「冥土のみやげに。」

「みやげって…お前。」

「俺が人生で唯一興味を持った人間なんだから、いいでしょう?」


彼はしばらく黙っていたが、頷いた。
なんだか、変にワクワクして気合いが入る。


「じゃあ、まず生まれは?」

「知らない。」

「親は?」

「…‥総ちゃんさあ、そっから始めるの?」


彼はなんだかうんざりという顔。
触れられるのはうざったい場所なのか。
総ちゃん、って呼ばれると責められた気がした。


「…じゃあ、今の旦那について教えてくだせぇ。…誕生日。」

「10月10日。」

「へぇ…歳は?」

「27…多分。」

「近藤さん寄りですかぃ!身長は」

「177。」

「もっと大きくみえやすよ。」


彼は少し嬉しそうに、まじか。と云った。

いつのまにか郊外の河川敷を歩いていた。


「旦那の…‥昔を少し。」


控え目に云うと彼に似合わず優しく笑った。
西日のせいなのか、俺が彼に近付けたからなのか。
唇が動き出す。
案外と穏やかに話すのだ、彼は。


「俺はガキの頃野良で、スリしたり万引きしたり戦場の死体から身包み剥いだりして生きてた。自分を守るためだけに刀振って。」


彼の瞳は朱色になって銀髪はオレンジに透けている。


「ある日、戦場漁ってた俺に本当の刀の使い方を教えてやるって云ってきた奴がいて…まぁ、そいつについていった。」


眩しそうに目を細めた。


「そいつ、先生って呼ばれて塾なんて開いてて俺も強制参加させられてたんだけど、刀以外興味なくってよ。いっつも寝てたわ。」

「…旦那らしい。」

「結局、そいつは死んじまって…俺たちは攘夷戦争に参加した。負け戦ばっかでいっぱい仲間が死んで…俺は結局守れなかった。」


彼は立ち止まると初めて下をむいた。
俺も地面をみた。


「―――で、まぁ万事屋銀ちゃんになった、みたいな?」


へらへらと笑いながら顔を上げて彼はまた歩き出す。
彼の歯並びはよかった。


「だいぶ抜かしやしたね。」

「…‥お前さ、本当に明日死ぬの?」


彼は俺を見る。


「えぇ。」

「なんで?」

「………」

「なぁ。」

「旦那、キス しやしょうよ。」


彼は険しい顔のまま。


「実はキスはしたことないんでさぁ。気持ち悪くってね。でも旦那なら…って、男とキスってのも気持ち悪いですかね。」


彼は溜め息をつく。
呆れたと。
死ぬ前に呆れられるのはよくない。


「旦那の歯並びがあんまりいいもんだから、つい。」


死ぬ前に悪印象を与えたくない。
人間の一番の欲求は人に認められることだとか。
でもこれは認められるとか以前の問題になってしまった。


「だ」


ごまかしに開いた口は彼の口とぶつかった。
いや、ぶつかったなんて表現は正しくない。
だって身長差からしてぶつかることはないのだから。
これは彼が屈んだから起こった事象だ。


「あ…だん、なぁ…」

「や、あんまり沖田の唇が動くから、つい。」

「はあ…」


訳の分からんことをいって、彼は平然としている。
またまた、お人が悪い。
そんな彼の唇は甘く、思いのほか柔らかかった。


「旦那にもう一つ。」

「え?」

「今日はエイプリルフールですぜぃ。」

「…え?」

「エイプリルフールじゃない日にエイプリルフールを行う日、でさぁ。」


もちろん俺の中だけのだ。
この後彼が俺を蹴り飛ばしたのは云うまでもない。



end

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なんてこった!

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