Silver Soul

□パーもパーとてパーばかり*
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『女の子を見繕ってほしい。』
坂田銀時の営む万事屋は、此度も無理難題に直面していた。
依頼主はコンパニオンを派遣するカンパニー。
有名な貿易会社社長が主催する宴の接待を控え、コンパニオン全員が社員旅行の牡蠣食べ放題に悉くあたったのだ。
カンパニー役員である依頼人も虫の息で、キタロー袋片手に点滴をしながらやって来た。
食あたりなどプロ意識の欠ける理由がライバル社に広まれば、今までの顧客もとられかねず、内々に収めたいと云うのだ。


「てめーら、そんな大事な仕事を前に牡蠣なんてデンジャラスなもんに手を出してんじゃねーよ。」


銀時は、依頼人に辛辣な言葉を放つ。


「そ、それはもう、言い訳もできなおろろろろろろろろろ」

「おいい!ひとんちで何してくれてんの!くさっ!」


謝罪の言葉と共に出た吐瀉物の臭いに鼻を摘まみ、貰いゲロをなんとか堪える。
一通り吐き終えた依頼人は仕事を成功させてくれれば謝礼はしっかり出すという。
家賃の支払いも停滞しているし、金は喉から手が出るほど欲しい。
しかし、銀時にはまともに紹介出来るような女子の当てなどない。
そうなると今回もあの手でいくしかない。
銀時は溜め息をつくと請け負った。


「はーい、こんばんはあ。パー子でえす。」

「パチ江でーす。」

「グラ子でぇす。」


指定された時間に料亭に到着する三人。
何時ものように女装して『少しクセの強い女子』で乗り切ることにした。
これまでの経験からか、三人とも肝が据わり、こなれてきている悲しき万事屋稼業。
この事実は依頼人にも秘密だ。
とにかくこの時間を乗り切れば、報酬が手に入ると三人の心は一つとなる。


「お、待っちょったぞ!はようはよう!」


訛りのある男に座敷の奥へ通される。
銀時は、コンパニオン会社の売りでもあるハートに抜かれた胸元に膝上丈の白地のワンピースから、股間のもっこりがばれないよう手で隠しつつ社長と呼ばれた男の隣に座した。
胸にはスーパーで買ったクリームパンを仕込んでいる。


「お楽しみがようやっと来たぜよ!」

「どおもー、社長さ...」


顔をあげた銀時は瞬時にしゃくれた。
それを見た二人もしゃくれを作る。


「ん?おんし、さっきそねいにしゃくれとったか?」

「やだあ、初対面で失礼い〜このいんきんたむし〜」

「あは、すまんすまん!」


笑って頭を掻く男は、旧友であり快援隊社長の坂本辰馬だった。
銀時はしゃくれた顎を震わせながら、詳細を聞かなかった事を後悔する。
吐瀉物の臭いから逃れたいばかりにとっとと追い出してしまったのだ。
とにかくばれるわけにはいかないと、銀時はしゃくれのまま酌を始めた。

土佐弁が飛び交う座敷は幸いにも昔話に花が咲いている。
新八もそつなくこなしているし、神楽は話に夢中な客の膳に手を出すだけに留まっている。
坂本も同郷の仲間との話に夢中で、楽しみにしていたという割に、銀時の方にちょっかいをかけることもなかった。
しゃくれの効果だろうかと銀時は空いた盃に端から酒を注ぐ事に徹した。
夜も更けた頃、坂本が立ち上がる。


「宴もたけなわじゃが、ここらでお開きとしようかの。」


皆、赤ら顔で坂本を見上げた。


「今日は楽しい宴じゃった。こうして話せる友がいるのは幸いなことぜよ。わしゃー、皆がこの地球に居ってくれるから宇宙相手に頑張れるんじゃ。これからも宜しく頼むぜよ!」


坂本の熱い言葉に、おお!任せろ!と声が上がる。
頭がからっぽの様でも、自分の信じる大義のために全てを置いて宇宙へ行った男は土佐の同志にも慕われているのだろう。

座敷の入り口で肩を叩きあい、別れを惜しむ姿を見ながら、銀時は坂本を見送ったあの日を思い出していた。
最後の一人を見送った坂本が振り返る。


「さて、今日はお疲れ様じゃ、しゃくれ三姉妹。」


三人は、しゃくれたままホッと息つく。
客も満足しているようだし、あとはさっさと帰って報酬を待つばかりだ。


「では私達はこれで〜」


銀時は、二人を連れて会釈しながら退室しようとした。


「待て待て、そこの天パしゃくれは残ってもらうぜよ。」

「え”?」

「え”?じゃのうて、いつもそうしとるろー。お宅のカンパニーのサービス。」


きいてねぇええええ!!!
銀時は心でシャウトする。
あとの二人は帰ってええと坂本は新八と神楽にタクシー代を握らせる。
依頼の詳細を聞いてないアンタが悪いと云う顔で二人は合掌すると帰宅してしまった。


「アイツ黙ってやがったな...!」


あの依頼人は、裏のアフターサービスがあることを云えば断られると踏んで黙っていたに違いない。
まともな女を斡旋していたら、どうするつもりだったのか。
ゲロ男の汚い遣り口に、銀時は青筋を立てる。


「ん、なにか云うたか?」

「い、いえ〜」


今、集中すべきはこの状況だ。
知らないものは無いものに出来ないだろうか。


「こっちに座らんか。」

「あの、今日はアフターサービスはないって話になってるんですぅ。」

「...あっはっは。そんなはずないぜよ。このサービスがなかったらおまんらの会社を利用せんし、すでにサービス料金を支払うちゅー。」


云うと青く鋭い目が銀時を射抜く。
普段無害そうに笑っているが、たまに見せる目は隙がなく押し通す威圧感がある。
流石商人と云うべきだろうか。
こうなったら適当に粗相をやらかして、向こうから願い下げてもらうしかないと、銀時は坂本の隣へ座った。


「はーい。ささ、呑んで呑んで。おつぎします〜」

「おんや、どこかで会うたことがある気がするんじゃけど。」

「そうですか?私は会ったこともないですぅ。その頭どうなってるの?タワシ?陰毛なの?」


盃に注ぐ酒をびちゃびちゃと溢して、暴言を浴びせる。
しかし、ちっとも気にしないのか坂本は愉快そうに笑っている。


「あっはっは。おもしろいおなごじゃの〜。まあええ、話でもしながら、おまんも呑まんか。」


大口を開けて笑う懐かしい顔に、少し油断した銀時は、呑まないとやってられないと酒をいただくことにした。


「今日は同郷の友と飲めて楽しかったのお。...昔、地球に残って落っこちた星を空に返しちゃる言うた仲間がおった。そのおかげで今もわしゃ宇宙なんて大けな海で網をはって漁ができるんじゃ。」

「それ絶対適当に言ってる。」

「それでもそれで十分じゃった。実際、こないだも砂からリリースしてくれたぜよ。」


銀時は以前砂蟲に引きずり込まれた坂本を思い出し笑う。
あのあと、口はジャリジャリするし、下着の中まで砂だらけで大変だった。
膝に置いた手にふいに坂本の手が重ねられる。


「...おまんは、やっぱりええおなごじゃった。」

「は?」

「どいてしゃくれちょったかは知らんけんど、わしゃべっぴんさんじゃと思うちょった。」


がたいはええけど、と云うと猫のように顔を擦り寄せてくる。
同時に腰に回された腕にグッと引き寄せられ、正座をしていた銀時のバランスが崩れる。
痛いと文句を云おうとするが、接近する顔にキスをされると気付いた。
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