Silver Soul
□10/10坂田銀時誕生記念
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10月10日。
人々にとって特別な日ではない、秋のある日。
真選組鬼の副長、土方十四郎は殺気だっていた。
原因は、自分では気がついていない片思いの相手------万事屋なんていかがわしい商売をしている銀髪の侍、坂田銀時だ。
今日は銀時の誕生日。
土方はあの憎たらしいにやけ顔どうやって崩してやろうかと9月から考えていたのだ。
しかし、山崎を使っていろいろ調べた土方だったが、情報が揃ったところでこれと言っていい案が浮かばないままその日になってしまった。
朝8時。
本日二箱目の煙草に火をつける。
「なんにも浮かばなんだ…はぁ…」
今日は有給をとっている。
部屋の真ん中であぐらをかいていた土方は煙草をくわえなおすと立ち上がった。
「…ひとまず、出てみるか。」
*****
雑踏の中を進む。
どれくらい歩いただろうか、いつの間にか万事屋の前にいた。
煙草を取り出す。
今日もあの男は平日だというのにまだ寝ているのだろうか。
銀時の寝顔を想像する。
骨格は男のくせにふっくらと白い頬に子供のように口を開けて寝ているのか。
「ふわぁ〜。っと、ん?多串君じゃん。」
「っ!!」
間抜けな欠伸と呼びかけに、煙草を落とした。
二階の万事屋の玄関から銀時がこちらを見ている。
いつもの独特の格好をして。
「なにしてんの、こんなトコで。」
「っ、いちゃわりぃかよ。」
「別に悪くねーけど朝からお前は見たくないです。ってか着流しってことはお休みなの?へぇー、国民からお金巻き上げてる税金泥棒様は国民が汗水流して働いてる間にぷらぷらしてんだー。いいご身分だねぇー。」
「てめぇはいつもぷらぷらしてんじゃねぇか!」
「んだとぉ!俺は家でジャンプ読みながら依頼くるの待ってるからぷらぷらじゃねぇ!」
「それって動かねぇってことじゃねぇか、なお悪いわ!つーかてめーは税金払ってるかも謎だっつの!」
「あんだと、コラぁ!なんだ、かまってほしいのか、かまってほしいのかコノヤロー。なんなら相手してやるけど?」
「それはてめぇだろ!上等だ、やってやろうじゃねぇか!」
土方が柄に手を添えたときだった。
「「うっせぇぇぇぇっ!!」」
「「!?」」
パ-----ン!!
下から引き戸が激しい音を立てて開くと同時に上からも、
ガシャ-----ン!!
と引き戸を破壊する音が聞こえた。
「「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」」
二人の悲鳴が青空に響いた。
*****
銀時と土方は並んで歩いていた。
さっき殴られたところが痛い。
お登勢に殴られた土方と、神楽に殴られた銀時は互いに無言でいたが、銀時が口を開いた。
「土方君さぁー…」
「あ?」
「なんで朝からあんなとこにいたの?」
「……」
「お前がいなけりゃこんなことにはなんなかったのによー」
「俺だけのせいじゃねーだろうが。」
「いや、あれはお前が悪いね。」
「悪くない。」
「あーぁ、今日は誕生日だってのになぁ〜。こんなスタート切っちまうなんてさぁ〜気分悪いなぁ〜?」
頭の後ろで手を組み、わざとらしい声を出すと、銀時が立ち止まる。
少し進んだ土方が振り返ると、こちらと団子屋をチラチラと交互に見ている。
「なんだよ。」
その目に気付かないふりをして問いかける。
「俺誕生日なんだけど。」
「さっき聞いた。」
銀時が唇を尖らせる。
この顔は好きだ。
緩みそうな頬を目を尖らせることで抑える。
「朝からチミのおかげで最悪の気分なんですけど?」
「俺のせいじゃねぇっつったろ。」
「…団子、奢れ。」
土方が気付かないふりを崩さないとわかったのか遠回しな言い方を諦めた。
そんな銀時を気づかず可愛いと思いながらも土方は首を縦にふらない。
「なんで俺が奢らねーとなんねんだ。」
「誕生日プレゼント。」
「なんで俺がプレゼントやるんだよ。そんな筋合いねーよ。」
「じゃ、朝から俺の前に現れて気分を害した詫び。」
「現れたくて、てめーの前に現れた訳じゃねー。つか、俺からしたらてめーが俺の前に現れたんだけど。」
「……」
銀時は黙り込む。
団子屋を恨めしそうに見つめる姿はガキみたいだ、と土方は気分良く口角をあげると団子屋へ足を踏み入れた。
「おい、どうした、いらねーのか。」
「…いや、いりますけど…。」
肩越しに振り向くと驚き顔をした銀時がいた。
気分が良い。
席につくと女の店員が近づいてくる。
興味深そうに土方と銀時を見る。
平日の午前中から男二人で団子屋に入る奴なんてそうそういない。
銀時にメニューを託し土方は煙草に火をつける。
ああだこうだと注文する銀時を見つめながら煙を吐き出す。
注文を終えた銀時は不機嫌そう頬杖をついた。
「ちょっと土方クン。煙草やめてくんない。」
「あ?てめぇ食わせて貰っといて人の楽しみとんじゃねーよ。」
「まだ食べてません〜。お前の吐き出したそのきたねー煙が俺の肺を汚しちゃうだろ。お前の二酸化炭素なんか吸いたくねぇ。」
けっ、と顔を横に向けた銀時の前に団子が山積みになった皿が何個も運ばれてきた。
おしるこやあんみつまで運ばれてきてテーブルはすっかり埋まってしまった。
途端に銀時の顔が輝く。
わぉっ、と声をあげる銀時の顔がなんとも可愛らしい、と思っていることを土方自身知らない。
「とっとと食えよ。」
「うっせーな、もうちょっと幸せに浸らせろって。こんな大量の甘味見る機会なんてないんだから。…よし、食うか。」
串をとると団子にかじりつく銀時。
見ているだけで胃もたれしそうなほどの団子に土方は眉を寄せながらも食べ進める銀時をじっと見つめる。
たまに唇を舐める舌の動きに無意識に集中する。
三回目のそれを目で追ったとき銀時の動きが止まった。
「あのさぁ、」
「なんだ。」
「そんなにじろじろ見られると食べづらいんですけど。」
「見てねぇ。」
「見てたよね!?めっちゃ見てたよね、おまえ!」
「見てねーつってんだよ。つーか人にそんなこと言う前にてめーでてめーの顔見ろ。」
「は?」
「こんなにつけやがって、きたねーな。気持ち悪くないのか。」
口に煙草を銜えたまま土方はお絞りで銀時の口周りを拭く。
唇は舐めても口周りにはあんこやみたらし団子のタレがべっとりとついていた。
食べかけの串を持ったままされるがままになっている銀時はまた驚いた顔をしている。
「ほら、綺麗になったぞ。」
「あぁ…うん。ドウモ。」
土方が手を引っ込めると銀時は口周りを手でさする。
煙草を灰皿に潰すと土方は伝票を見る。
「……」
人生の内団子屋でこんなに金を使うなんて最初で最後だと思った。
が、最後でもないか、と思い直した。
これから先何があるかわからないから。
団子を食べるのを再開した銀時に訊いてみる。
「お前昼飯入んのか」
「心配ねーよ、俺には昼を食べれるような金ないから。」
「なんかちがくね?それ。」
ずずー------
土方の言葉を無視しておしるこを飲みほすとゲップを一つ。
きたねーな、呟いた土方に銀時は満足げに笑う。
「いや〜食ったわ。」
「見りゃわかる。」
レジで会計を済ませ、外に出る。
昼前だからか人が多い。
飯でも食うか。
土方が考えていると肩に腕が乗ってきた。
そちらを見ると顎に手を添えて銀時が笑っている。
にやにやと意地汚い笑みだ。
「気持ちわりーな。」
「キモくねーよ、むしろかわかっこいい?」
「そんな言葉はねー。あったとしてもお前にはあてはまんねー。」
「んなこといいからよー。昼くわねー?」
「っ!?お前団子食ったよねぇ!?その前に金ないっつってただろぉが!」
「いやいや、お寿司食べたいんだよね。」
「知るか!」
「俺良い店知ってるからさ、な。」
「な。じゃねぇ!」