Silver Soul

□名も無い時間
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 名も無い


「ねーなー、なんっにもねーよ。」


隣から棒読みの声がした。
いや、「なんっにも」の「なんっ」の部分には力が篭もっていた。
声の主、坂田銀時という男は今しがたパチンコですかんぴんになった。
そして、38歳で無職になった明日も見えない俺も今しがたスロットですかんぴんだ。
公園にあるベンチに背中を預け、声の主に呟く。


「あぁ、ねーよ、なぁ。ホント。」

「ぁー…ねぇわ。あンとき止めときゃなぁー…」

「云ってもしょうがないよ、銀さん…。」

「あー、時が戻んねーかなぁ。いや、もうタイムスリップでいい。タイムスリップしてあの時の俺に、そこで止めろ、俺!って云ってやりてーよ。ほんと。」


溜め息と共に言葉を切ると隣の男も背もたれに凭れる。
子供のはしゃぎ声が遠くから聞こえた。


「いやいや、突然銀さんが現れたら過去銀さんが驚くじゃん。old銀さんが。」

「あ?あー、そこは大丈夫デショ。だって俺な訳よ?old銀さんは。ちゃんと説明してやれば判ってくれるって。だって俺なんだからよ。」

「どうかな〜、俺は銀さんなら云うこと聞かないと思うがな〜。new銀さんの云うことなんて。」


訳もなく横にあるゴミかごを見つめながら呟く。
ポテトチップスの袋とカンが一緒に入っているのが無性に気になった。
銀時が勢いをつけて背もたれから離れ前のめりになる。
膝に肘を置き頬杖を付いて。
目線の先には何とかカードとかが入っていたと思われる袋が落ちていた。


「何ソレ。なんかムカつかねーか、old銀時。new銀さんの意見の方が正しいに決まってんのにさぁ。馬鹿だよな、そいつ。」

「いや、だからそいつはold銀さんなんだろ?結果的には自分の事貶してる事になるって。」

「マジでか。つか、ちょっと待て。oldとかnewとかの辺りで間違えてね?俺達ってば。だってニュータイプとかじゃないんだぜ、未来銀時は。ガ●ダムじゃないんだよ。何だよ、newって。」

「いやいや、元はと云えば銀さんが言い出したんだからな、newって。」

「んだ、こら。元の元はと云えばアンタがoldって云ったからじゃん?ってことは悪の根元は長谷川さん、アンタだよ。」

「え、なんでそーなるの?訳わかんねぇわ。俺。」

「なんでって、今云ったから。云ったばっかだから。」

「え。今のって銀さんの話だよね?」

「何云ってんの、長谷川さん。アンタの話しかしてねーよ。何、ついに惚けたの?」


いつの間にか喧嘩腰になって二人で睨み合っていた。


「パチンコすったからって人に八つ当たりするなよ、お前。俺だって負けてんだから」

「うっせーよ、ハゲ。」

「あのさ、最初に会ったときにも思ったんだけどさ、俺ハゲてないよね。」

「あぁん?ハゲてんだろーが、精神的に」

「いやいや、それってもう、ハゲって単語が云いたいだけじゃん。現実ハゲてないやつにハゲって云うのはおかしいんじゃね?ハゲの人に悪いだろ、当てつけみたいで。」

「アンタはハゲって言い過ぎじゃね?つか、もうハゲって何なのかわかんねーよ。何、ハゲって。」

「そーいや、何だろなー。ハゲって。禿だもんなー。」

「由来がわかんねー。」

「ほんとなぁー…」


お互い背もたれに背中を戻すと、顔を上げる。
吸い込まれそうに青い空が広がっていた。
同時に長い長い溜め息をつく。


「銀さん...なにやってんのかなー俺達。」

「そいやいつもここでだべってるけど、コレって何なの?散歩?会合?」

「歩いてないから散歩じゃないし、話し合うアレもないから会合でもないだろう。」

「じゃ、なに…デート?」

「デっ…うーん、デートじゃ…無いだろ、コレ。銀さんだったらこんなデート嫌だろ、ベンチに座って下らない話するデートなんてさ…。」

「あー…ほんとなんなんだろな、この時間ってよぉ。」

「…さぁなぁ…」


胃袋は空、財布も空。
女神もハツも振り向いてはくれないけれど、頭上の空は爽やかで、俺達の距離は変わらない。
今日もまた名も無い時間が積もってく。


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マダオ+銀時。
二人の時間。
下らない日常が好き。


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