Silver Soul

□君は俺の○○。
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「いい加減起きて下さい!」


イライラとした大声と共に掛け布団をはぎ取られる。
万事屋銀ちゃんの雑用係…いや、助手である新八によって露わにされた体は、冷たい空気に身を縮こませた。


「ちょ…さみぃ!何すんだ、このダメガネェェ…!」


そう叫ぶ万事屋銀ちゃんの主兼その体の持ち主の坂田銀時は寝転がったまま膝を抱え、薄いせんべい布団の上で恨めしそうに新八を睨み上げる。
しかし仁王立ちしている新八にはなんの効果もなく。
逆に、


「万年金欠駄目人間にダメガネなんて云われたくねーよ!今何時だと思ってんですか!?平日だってのにこんな時間まで寝て!緊急の仕事の依頼が来たらどーするつもりなんだよ!?世の中の人間はとっくに活動開始してんだよォォ!!」


と火に油を注いでしまった。


「ほら、早く起きて下さいって!朝ご飯食べてくれないと片付けられないですから!」


新八に急かされ、半ば転がるように布団の上から退き、銀時は欠伸をしながら呟く。


「今日は特にうるせーな、なんだ、生理か?それでイライラして」

「誰が生理だボケェェ!」


銀時の呟きは頭に降ってきた鉄拳によって消された。
痛ぇな、とふわふわの天パ頭を撫でながら銀時は、新八のくせに…と唇を尖らせる。
そんな銀時を無視してテキパキと布団を運ぶ新八。
銀時は無理矢理起こされた不機嫌から、居間へ向かう途中、


「ったく、お前は俺のかーちゃんですか、コノヤロー。お前みたいなかーちゃん、炒飯作れてもいらねーよ。」


と言い放った。
その時。
ガターン、と云う音が物干し台から響いた。

******

何事?と銀時が物干し台の入り口に近づき覗くと、新八がぺたんと座り込んでいた。
新八の前には音の原因らしい物干し竿と銀時の敷き布団が落ちている。
座り込んだままの新八の後ろ姿を見下ろす。


「おい、ぱっつぁん。」


呼びかけるも返事はなく。
俯いている新八に銀時は頭を掻くと、ひとまず落ちている布団を拾い上げた。
布団を払いながら斜め下にいる新八をちらと見る。
どうしちまったの、この仔。
すると間もなくして新八は無言で物干し竿を掴んで立ち上がった。
表情は見えない。


「何よ何よ、人にはあーだこーだ云っておきながらお前。自分はもの落としてぼーっとして、何なの」


銀時はからかうように新八に愚痴をこぼした。
どうも反応がイマイチな新八がいつものように反論してくる事を期待して。
しかし新八は少し背伸びをして物干し竿をかけ直すと、銀時の手から布団を抱えとり、ぼそぼそと呟いただけだった。


「スンマセン…あの、もういいんで、ご飯食べちゃって下さぃ…」


それきり銀時に話しかけることなく、黙々と布団を干しにかかる。
そんな新八にどうしたもんかと銀時は曖昧な返事をして居間へ向かった。

******

居間に行くと、神楽がソファーに座り酢昆布をしゃぶりながらテレビを見ていた。
神楽の膝の上に頭を乗せ撫でられている定春は気持ちよさそうに目を閉じている。
机の上には最早冷めてしまっているであろう朝食が用意してあった。


「銀ちゃん、今日もオソヨーネ。」


飯と味噌汁と薄ーい卵焼きが置いてある前に座る銀時に神楽が碧い瞳を向ける。


「いただきますっ、」


銀時はそれを受け流して箸を持つと冷えた味噌汁を啜り、テレビに目を向けた。
そんな銀時を半目で見ながら神楽は新しい酢昆布をしゃぶりだす。
テレビの内容に興味のあるふりをしながら銀時は、一個の卵をギリギリまで伸ばした新八の薄ーい卵焼きを口に入れた。
実家の貧乏にプラスして万事屋の万年金欠状態に携わっている今、新八の貧乏テクは料理にまで及んでいる。


「新八、最近銀ちゃんが怠けすぎって怒ってるヨ。銀ちゃんがマダオなのは今更なのにピリピリカリカリ様子がおかしいネ。」


定春の頭を撫でながら神楽が呟く。
銀時はマダオには触れずにピリピリカリカリの部分にだけ同意を見せる。


「アレだよ、アイツぜってーカルシウムが足りねーんだ。卵の殻でも料理に混ぜてみるか?」

「卵の殻入れるの私得意ヨ。」


神楽が自慢気に鼻を鳴らす。
いやいや、そんなん誇れねーから、と銀時は手を振りながら飯を咀嚼する。


「でも、ほんとにピリピリし過ぎネ。銀ちゃんのご飯食べてやろうと思ったらごっさ怒られたヨ、さっき」


ねぇーっと定春に同意を求めて笑う神楽に、それは俺も怒るから、と呟く。
神楽は聞こえていないのか、聞こえないふりをしているのか、何食わぬ顔でテレビのチャンネルを変えている。


「さっきも、」


神楽は見たいチャンネルが無かったのかリモコンを放り出し一度言葉を切る。


「物落とす音がしたネ。」


ちらりと神楽の視線が銀時をとらえる。
何があったのかと尋ねているのを感じたが、銀時はあまり答える気にならなかった。


「…ぁー、さぁなぁ。物干し竿と布団を新八が落としたんだけど、固まってて様子がおかしかった…なんか訳わかんねぇわアイツ。」

「銀ちゃん何したネ?」


神楽が当たり前のように訊いてくる。
銀時が悪いと決めつけているのだ。


「何って、何もすりゃしねーよ俺は。ただ、あんまり口うるさいからお前みたいなかーちゃんは要らねーってからかっただけよ?」

「それネ!」


神楽が勢い良く指を指してくる。
食べ終わった食器を重ねていた銀時は顔を上げた。


「それって、何だよ。」

「銀ちゃんのマミーって云われた事がショックだったのヨ、きっと」


神楽は指していた指を顎に添え、うんうんと目を瞑ってしたり顔で頷いている。
はぁ?と銀時は眉根を寄せた。


「どーゆーことだ?」

「わからないアルか!」


神楽がまた銀時を指差してくる。


「銀ちゃんのマミーなんて誰でも嫌ネ!新八は傷付いたんだヨ!只でさえ屈辱なのにそれさえ要らないなんて云われてっ!」


神楽の人差し指を折ってやりたい、と銀時は神楽を見る。
銀時が行動に移る前に引っ込んだ指はまた神楽の顎に移り感慨深げに揺れる頭に合わせて上下に動いていた。


「私だって銀ちゃんのマミー扱いされたら怒るネ。彼女扱いされたらもうドメスティックバイオレンスヨ。」


銀時は腕組みをした指を叩きながら神楽を睨む。
こっちだってこんな毒舌怪力胃拡張娘が彼女なんてお断りだ。
論外。
一体俺の尊厳はどうなってんの?


「俺だって御免----」

「新八!」


ガタガタ。
神楽の声と襖が揺れる音で後ろを振り向くと。
変な歩き方で壁づたいに歩く新八がいた。


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