Silver Soul

□染まらない色・染める色
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正月過ぎて一体何日経つ?

もう周りは新しい年を日常にしてるってのに寒々しい曇り空の下、俺は近くの社寺で幾分遅い初詣中。
…って、実際には二回目になるから初詣じゃねーな。
一回目の初詣は万事屋ファミリーとして行ったし。
二回目のこれは…まぁ、照れずに云えば恋人として、って事か。
正月にまで仕事を入れた俺のバカな恋人-----土方との初詣。

つか、なんで正月の三が日ずっと仕事入れてんだ、なんで明けましておめでとうって電話の一つもしねーの。
何気に新年になってから数時間待ってたのに、俺。
そればかりか何日放置プレイ?
新年早々放置プレイとか、銀さん萎えちゃうんですけど。
俺としてはさ、お屠蘇呑んで、気分良く姫初め、みたいなコトを考えていた訳よ?
なのにさ、この仕打ち。
おかしくね?
私と仕事どっちが大事なの、みたいな事を訊く女はうざがられるっつーし、そんな奴はアッパーカットだぜ、とか俺自身思ってたんだけどさ、今はその気持ちが判るわ、うん。
ってか、そもそも正月早々にテロだテロだ騒いでドンパチやらかした馬鹿な奴らが腹立つ。
萌える闘魂だかなんだか知らねーけどよぉ。
テロの前に紅白観ろ。
テロの前にDynamite観ろよ。
テロの前に年越し蕎麦喰えよ。
テロの前に除夜の鐘聴いて煩悩消せ。
煩悩抱えといて国変えるとか出来ると思ってんのかバカヤロー。
ヅラだって、あのお祭りヤローだって動かねーんだぜ?
あいつらでさえ煩悩一秒位は消してんだよ、多分。
まぁ、俺は消す気なんてなかったけど。
兎に角空気読めない奴らのアホらしい爆弾だの何だののせいで土方の仕事も延びたんだ。
三が日位テロから離れてペロの散歩行きゃよかったんだ。

石段を上がりながら俺は心の中でぶちぶちと文句を言い続けた。
なのに土方といえば俺の少し前を上がり続けている。
振り向きもしない。

そこは並んであるこーぜ、多串くん。

俺は黒い背中に呟いた。

******

土方が小銭を投げ入れ、パンパン、と手を合わせるのに便乗して俺も手だけ合わせる。
じゃらんじゃらん、と鈴が鳴る音が杉に囲まれた境内で響いて、なんか鴉が鳴いてるし。
空、鉛色だし。
人っ子一人いないし。
隣の土方を盗み見るけど何を願ってるのかはわからなかった。
ってか、願ってんのコイツ?
ただ手を合わせているだけにも見えるんですけど?
俺は綿入れの袖に両腕を突っ込み辺りを見回してみる。
なんかもよおしてきたんだけど。
厠何処だよ。
あ、あった。
境内の外の道に小屋みたいな建物が見える。


「ちょ、厠行ってくるわ」

「あぁ」


俺はまだ賽銭箱の前にいた土方に呼びかけ、厠へ向かう。
こうも寒いとどうも尿意がさ。
ぶるりと一度震えて小便器の前に立つ。
溜め息が出た。

俺達、付き合い出す前の方が会ってた気がするんだけど。
街中とか、公園とか。
最近は街中でも公園でも会わないし。
裸のお付き合いより刀のお付き合いしてた時の方が近かった気がする。
何でだろーな。
男どーしだからかしらん。

考えるのを止めて俺は腰を震ってしまい込むと手洗い場に向かう。
冷たい水道水が手に痛いし。
ハンケチなんて持ってねーから手を振って自然乾燥。
外気が水で冷えた手を刺す。
あーぁ、赤くなっちまったわ。
悪態をつきながら降りてきた道を戻る。
途中で土方と合流した。


「もういいの」

「あぁ」


二人してまた石段を降りる。
氷のようになった手は自分の袖には入れたくなくて、俺は土方の黒い袖の中に手を突っ込んだ。
俺の冷え切った手が土方の二の腕あたりに巻きつく。
土方は眉を寄せて俺を見たけど文句を云ったり、俺の手を剥がしたりしなかった。


「ほら」

「あん?」


暫く人気の無いところを歩いていると、土方が袂に手を突っ込んで何かを取り出した。
ちりん、と凛とした音を立てて出てきたのは小さな白い御守り。
土方が俺の顔の前にぶら下げてくる。
ゆらゆらと揺れる其れを目でおいながら、俺は、だから?と思った。


「なに?」

「肌守り。」

「ふぅん、人居ないのに売ってたの」

「やる」


くれるんだ。
俺は土方を見る。
横目で土方が俺を見ている。
土方から御守りを受け取って、白地に金文字の刺繍がしてあるのを見つめた。
俺が昔、白夜叉と呼ばれていたのを知らないで白を選んだのだろう。
俺の人生には常に"白"が付きまとう。
まぁ、髪も白けりゃ今着ている綿入れだって白いからアレなんだけど。
ご丁寧に鈴まで白くしてある。
試しに訊いてみた。


「何で白なの」

「気に入らないのか?」

「いや、ただ訊いただけ。」

「…綺麗だろ。」


土方を見ると中途半端なポーカーフェイスで。
綺麗、だって。
いつも"白"は血を鮮やかに浮かす、血に染まる色だった。
戦場では実際そうだった。
ヅラのさらっさらの漆黒の髪よりも坂本の俺と似たようなクリクリの茶色い髪よりも高杉の濡れ鴉のような紫の入った黒髪よりも俺の髪に血は映えた。
なのに"綺麗"。
俺の恋人は綺麗って云った。
不思議な感じ。


「でも、白は汚れちまうぜ?」

「んなの洗えばいくらでも白く戻んだろ。何に染まっても最後には白は白なんだからな。」

「ふぅん?」


よくわかんないわ。
何にでも染まれるって事か?
いや、ちげーな。
何ににも染まらないってことか。
最後は白なんだっつってたから。
じゃ、黒だって何ににも染まらないんじゃね。
むしろ染めちまうだろ。
白以外は。
俺は自分の袂に手を突っ込む。


「はい、これ。」

「?」


土方の手に握らせる。
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