Silver Soul

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沖田と別れて、気乗りしないまま真選組屯所に着いた銀時は屯所内には入りたくなくて門前に山崎を呼び出す。
暫くして沖田たちとは違う隊服を着た山崎が出てきた。


「何の御用ですか、旦那。」


山崎がのらりと尋ねてくる。
銀時は茶目の小さな瞳を見つめて、様子を窺う。
特に何か隠している風ではない。
が、油断出来ないと頭の中で警戒心を強める。
山崎は真選組や周りでは地味、などとぞんざいな扱いを受けているが有能な監察なのだ。
考えや気持ちを面に出さず平然と嘘をつくことだってできる。
万が一新八が、

『万事屋の誰かが来ても"いない"と云ってくれ』

と頼んでいるとすれば、山崎は仲間意識で嘘をつくかもしれない。
…って、新八が拒否るんじゃ諦めるしかなくね?
銀時は、ぁー…と間延びした声で間を取りながらどうすべきなのか悩んでいた。


「旦那にしてはハッキリしませんね?」

「ぅん?ぁー、アレ、新八来てねぇか?」


山崎に顔を覗き込まれ、仕方なく銀時は曖昧な顔で尋ねた。
曖昧な顔の銀時の問いに一瞬きょとんとした山崎の目はいつもの蒲鉾のような猫目に戻り、口を開く。


「あぁ、新八君なら確かに来ましたよ」


山崎がのんびりと答えた。

******


「来ました?なんで過去形?」


銀時は眉を上げ聞き返す。
山崎は顎に手を添えて思い出すようにしながら、


「いえ、泡まみれのスポンジ持って来て、少し話したんですけどね、さっき帰っちゃったんですよ」


と答えた。


「帰るって…何処よ?」


銀時は独り言のように尋ねる。
山崎が訝しげな顔をした。


「何処って、万事屋じゃないんですか?」

「ぃや…うん、そうだわな。」


銀時はその確率は高くねぇわ、と思いながら口だけ同意した。


「なぁ、話したって云ったけどなんの話したの?」

「寺門通ちゃんの話です。」


そう答えた山崎の表情は変わらない。
銀時は注意深くその顔を観察しながら尚も尋ねた。


「通?なんでここ来てアイドルの話すんのよ?」

「さぁ。何か突然お通ちゃんの可愛さについて誰かと話したくなったとは云ってましたけど、詳しいことは。」


山崎は思い出す素振りを見せながら、首を傾げる。


「俺もどちらかと云うとお通ちゃんは好きなんでね、話したんだけどどちらかと云うと聞いてる方で。」


新八君、熱かったなぁと笑いながら山崎が呟いた。

******

銀時は公園のベンチに横になる。
山崎と別れてそのままここに来た。
全く新八の思考がわからない。
そんな憂鬱さで躯がいつも以上にだらだらする。
銀時は背もたれの方に寝返りをうった。


「あれ、銀さんじゃん〜」


久しぶりだな、おい〜、と頭上で声がすると共に煙草の匂いが鼻をつく。
顔を上げると長谷川が見下ろしていた。

******


「久しぶりに会ったと思ったら、えらいシケた顔してどうしたの?」


ベンチの隣に立って煙草を吹かす長谷川が尋ねてくる。
ベンチに座りたかった長谷川だが銀時が横になったまま退く気配がなかったからだ。
銀時はうだうだとした調子で答えた。


「訳わかんないことがあってよォ、銀さん頭がショートしちまったトコ。」


へぇ、と長谷川が物珍しそうに声を上げた。


「珍しいこともあるんだな、銀さんがショートするほど何かを考えるなんてさ。雪でも降るんじゃないか?」


銀時は長谷川の下らない冗談を受け流し目を瞑る。
一人で笑っていた長谷川が銀時の肩を控えめに叩いてきた。


「冗談だって…銀さん。なぁ、悪かったって」


無反応な銀時に長谷川は困ったように謝ってくる。


「どうしちまったんだよー、銀さんらしくないって、ほんと。」


薄目を開けて見上げると、俺に話してみない?と長谷川がかがみ込んでくる。


「長谷川さんに訊いてどうにかなりゃ苦労してないっての」


銀時は拗ねた子供のように背凭れ側に顔を逸らす。
そんな銀時に長谷川はうぅ〜ん、と困ったように唸った。


「でもほら、俺の方が年上だしさ、意外と他人の方がわかることって、あるだろう?」


長谷川は銀時の耳からの顎のラインを見ながら呟いた。
綿毛のような髪がふらふらと好き勝手な方に揺れている。


「……そぅな…」


ポツリと呟くと気怠げに躯をずらし、長谷川の面積を作る銀時に長谷川はあぁ、そうだよ、と云いながら喜んだ。
パチンコ仲間、呑み仲間、堕落仲間の自分に相談して欲しかったからだ。
隣に腰掛け、懐に一個入っていた50個入り105円ほどのチョコレートを渡す。
チョコを受け取った銀時は少し元気になったのか躯を起こした。



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