Silver Soul

□積み木崩し*
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柔らかな陽射しが降り注ぐ昼下がり。


「はぁっ…んぁあっ、イっ…やァ!も、ひぁぁ…!」


真選組屯所の沖田の部屋から聞こえてくる声に、廊下を歩いていた土方は足を止めた。
途切れ途切れに色艶のある声が聞こえてくる。
ヒクリ、と煙草を銜えた土方の口角が引きつった。


「…あんにゃろ、仕事サボって昼間っから何しくさってんだ・・・」


青筋を立てながら辺りを見回す。
土方以外には誰も居ない。

…他の奴らに騒がれる前にシメとかねェとな…。

土方は獲物の柄に手を掛け、抜きたい衝動を抑えた。

******

土方にとって、沖田が女と何をしても関係はないが、ここは屯所。
しかも仕事をサボっての昼間からの情事。
せめて夜になってからにしろや、と。
怒り任せに携帯灰皿にタバコを押し付けもみ消すと、スパーン!と沖田の部屋の障子を勢いよく開け放った。


「総悟ォォっ!!てめ、昼間っからっ・・・あ?」

「なんでぃ、土方さん。」

「あ・・・どうも・・・」


土方は眉間に皺を寄せ、つぶやいた。


「なんでお前がここに居んだ・・・」


目の前の光景は予想とはだいぶかけ離れたものだった。

 総悟は、居る。

 女は、居ない。

 湯のみが二つ。

眼鏡が一つ・・・いや、万事屋のところの子供が一人。

志村 新八が一人。

足袋をはいた足を沖田につかまれている。
土方は声の主がわからず、きょろきょろと部屋を見回した。
あの艶のある声をだすような者はここにはいない。
どーゆーこった、こら…。


「いたたたたっ!!!やっ、あ、ぁんぁっ、はっ、あぁっ、む、りぃ!」

「胃が悪いみたいですぜぃ?」


…?
声のする方をみると、志村の足を掴んでいた沖田の手が足袋に包まれた足の裏を押していて、それに志村が畳に体を捩じらせながら、悶えている。
顔は上気し、ずれた眼鏡の向こうの目は涙で潤んでいて。
服ははだけ、筋肉が少し乗った白い胸が汗ばんでいるのが見え・・・。


「って、だぁからてめぇは何やってんだぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


考えていたことの照れ隠しのように土方はおもいっきり沖田の頭を蹴った。
沖田が体ごと襖に飛んでいく。
久しぶりにすっきりした。


「あぁ!沖田さん!?」


志村が沖田に這い寄っていく。


「いててて、ひでーや土方さん。」

「土方さんも何やってんですか!」

「俺はただこの眼鏡君に足で健康診断してやってただけじゃないですかぃ。」

「痛かったですけどね!」

「そりゃぁ、そのマッサージは痛いもんなんでィ、俺に文句云うんじゃねぇ。で、土方さんは何をそんなに怒ってるんで?」


志村と沖田が同時に振り向く。
その仕草にもいらっとしてしまう。
土方は青筋を浮かせながら無言で沖田をひっぱって廊下に出ると、障子を閉めて囁いた。


「おまえ、何企んでんだ。」

「企む?聞いてなかったんで?足のマッサージを・・・」

「ちげーよ、目的を聞いてんだよ。」

「足のマッサージ以外の何者でもないですぜぃ、新八君の健康を思っての事で」


くるりと目を回している沖田に凄む。


「しらばっくれんな、お前、足指圧しながらじろじろ舐るようにあの眼鏡みてたじゃねぇか。」

「はぁ、いまいち云いたいことがつかめぇんですがねぇ。」


何が言いたいんですかぃ?と云う顔の沖田にツッコムべきかと迷い、しどろもどろになる。


「っ、だから、おまえ・・・」

「おまえ?」

「アレだ、あのー、あいつに変な気とかあるんじゃねぇだろうな・・・?」

「俺があの眼鏡君に変な気?惚れてるかってことですかぃ?」

「っ・・・まぁ、そんな所だ・・・」


土方は軽く咳払いをする。


「・・・まぁ、好きっちゃあ好きですけどねぃ。」

「!?」

「土方さんも聞いたでしょう?あの声」

「こっ・・・あぁ廊下にも聞こえてたからな・・・」

「なかなかでしょう?」


 なかなかどころではない。

艶の良さにてっきり女かと思ってしまった。


「あの声が好きなんでさぁ、あと指圧してやったときの顔がぞくぞくするんで」

「〜〜!!わかった、もういい!」

「いいんで?」

「あぁ、もういい。てめぇがイかれてんのはわかった・・・」

「じゃ・・・」

「ってちげぇえよ!!!おまえは仕事だろぉが!!!」


また部屋へ戻ろうとする沖田の襟首をつかむ。


「お前はこれから巡回だっつの!!!」

「なんでぃ、人の恋路を邪魔しやがって、そーゆー土方さんだって」

「おれは夜があるから仮眠とるんだ!!」

「ちっ、じゃ、部屋の中にいる新八くんどうするんで?」

「あいつ?・・・あいつは、俺が返しとく。」

「あ、変なことするんですかぃ?」


土方さん、ヤらしい目で見てましたもんねェ、と沖田が口笛をふく。
さっきのことを云っているのか。
照れ隠しがバレてたのか、土方は頭がグラグラした。
そーゆー意味じゃねェよっ…!


「するかっ、てめぇと一緒にすんなや!・・・つかなんであいつ来てんだ?」

「あぁ、落し物届けに来たらしいですぜぃ。」

「落し物・・・そんなんで俺等のとこきたのかよ・・・」

「律儀な子ですよねぃ。」

「律儀っつーか・・・まぁ、いい。お前行ってこい!」

「へぃへぃ。」


沖田は面倒くさそうに欠伸をすると、ポケットに手を突っ込みくるりと向きをかえる。
そのまま行くかと思われた沖田は肩越しに振り返るとさも嫌そうな顔で云った。


「16歳なんだから、やめてくだせぇよ。新八ィ〜、気を付けろ〜〜」

「別になにもしねぇよ!!」


土方の噛み付くような否定の言葉を待たず沖田は愛用のアイマスクを取り出しながら廊下の奥へと消えていく。
 
・・・あれ、あいつ絶対寝るよな・・・

土方は5年分の気力を使った気分で重い溜息をついた。
夜の仕事のための仮眠時間を沖田に奪われ、むしろ力を吸い取られた気がする。
煙草に火をつけると一度ゆっくりと吸い込み吐き出す。
肺いっぱいに煙が広がっていく。

・・・さて、問題はあいつをどうするか、だな・・・。

土方は障子をちらりと見るとまた溜息をついた。

・・・あれは、どうも苦手ってか・・・

土方は顔を歪めながら障子に手をかけてひいた。


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