Silver Soul

□うさぎは寂しいとグレる
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かたん、


「…土方さん、雪ですぜぃ。」



;うさぎは寂しいとグレる;



「…あ?」


小さな呼びかけに書類を作成していた土方は顔を上げる。

障子の隙間、低い位置から沖田の顔がちょこんと覗いていた。


「雪ですぜぃ。」


土方は沖田を見つめ、この繰り返された言葉の続きを待った。

が、それきりらしい。

仕方なく、


「…そうかよ。道理で寒い訳だな。」


そう言って、書類に顔を戻す。


「…土方コノヤロー・・・」


どす黒い声で沖田が呟いた。

(…なんでだよ)

理不尽な悪態をつかれ、土方は心中で呟く。

だが長時間に渡る作業で今はそれを問うゆとりはなかった。

相手にしなければ飽きるだろうと、作業を再開する。

しかし沖田は寒いだろうに地蔵のようにそこを動かない。

無表情な中、土方を見張るような瞳は、何らかのプレッシャーをかけてくる。

そのせいか直接、去れとは言えず、


「…おい、寒いから用がねーなら閉めろ。」


ぶっきらぼうな声で示唆した。


「・・・」


暫く反応をしなかった沖田は、ふいにそこから気配を消した。


「開けっ放しかよ・・・」


薄く開いたままの障子に悪態をつくが、閉めるのは面倒だったので籠もった空気を換気する。

外は確かにうっすらと雪が積もっていた。




黙々と書類を書く。

いい加減、肩が凝って腰もギシギシとする。

(ツラい…)

煙草を左手に挟みつつ、それでも筆は休むことなく動いていた。

ヒュッ、バシッ!


「?!」


視界がぐわりとゆれる。

こめかみに当たって砕けたモノに筆が手を離れた。

頭にきた衝撃と、畳に砕けた白いかけらを茫然と見下ろす。

患部に手を当てると痛みと共に冷たさが伝わる。

ぶつけられ砕けたのは雪玉…に石が込められたもの。

タタタ、と廊下を走り去る足音に投げた相手は容易に想像つく。

感謝こそされど渾身の力で固められた雪玉をぶつけられる覚えはない。


「あンにゃろ・・・」


不意打ちのことにすぐに怒れなかったのが悔やまれるが、今からでも遅くない。

青筋を浮かべながら土方は立ち上がった。

薄く開いたままの障子に手をかけ乱暴に開けると。


「オイ!総-----…」


踏み出した足と出掛かった声が止まる。

足元に、真っ白な体に真っ赤な南天の目をして、緑の耳を持った雪うさぎが畏まっていた。

(何のつもりだ?)

土方は小さなうさぎを見つめる。

小さいくせに存在感だけはある。

現に土方の足は止まってしまった。

まだ、薄くしか積もっていない雪をこんなに集めたのか。

庭の方を見ると、積もりつつある雪の至る所がえぐれていた。

それは道のようで、足跡のようで。

うろうろうろうろしていた。

一人でこれを作った者の様子を想像すると、怒りは自然と消え肩から力が抜ける。


「…うさぎは・・・」


廊下の角から聞こえた声に見れば、手袋もしないで赤い手をした馬鹿がいた。

(そういやコイツも目が赤い)


「うさぎは、寂しいとグレちまうんですぜぃ。」

「そうかよ。俺は死ぬってきいてるぞ。」


土方がせせら笑うと沖田は苦い顔をする。


「それは一般のうさぎでぃ…ソイツは例外なんでさぁ。」


沖田が躯を揺らす。


「例外?そりゃ、ひねくれてやがるな。可愛げがねぇ。」

「…アンタは死ぬ奴の方が好きなんですかぃ?」

「ああ、そうだな。グレて雪玉ぶつけられるよりいい。」

「・・・」


言ってやると いよいよ沖田は苦い顔をする。

たまにはこんな顔も可愛いもんだ。

そういえば、久しぶりに沖田をちゃんと見た。

思ったより前髪が伸びている。

(目にかかって鬱陶しそうだな)

切ってやろうかなんてぼんやりと思う。

ついでに話をしようか。

話しながら、抱きしめて。

抱きしめて、切った前髪を詰って頭を撫でてやる。

冷えた手足も温めてやろうか。

素直に寂しいと言わないんだから、嫌がってもやってやろう。


沖田なりの意思表示に応えるように。

まだ変な顔の沖田に土方は手招きする。



「嘘だよ、俺は例外が好きだ。」






甘完.

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