Silver Soul

□aH*
1ページ/5ページ




ドクン ドクン

ドクン ドクン


「ハァ…ハァ…」


ドクン ドクン


「ッ…ハ…ァ…ァ」


ズルズル...

逃げるように走り、飛び込んだ公衆便所で退は壁に凭れながらしゃがみ込んだ。


aH*


苦しい。

呼吸が、できない。

躯が、震える。

汗がポタポタと床に落ちる。

コワイ?コワイ。コワイ!

青色のタイルに囲まれて、肩を抱く。

精神病院にいるような錯覚。

白い小便器。
個室。
洗い場。

すべてが、心をざわつかせる。


「ひっ…、ふッ…ぅうう…」


あの男。

河上 万斉。

アイツ、アイツはダメだ。

目玉をせわしなく動かす。

辺りを見回して、何かから怯えるように。

逃れるように。

また走り出した。

******

夕方。

長屋の一室で退は畳に横たわっていた。

日に焼けた畳、くすんだ壁。
シミの浮く天井。

ただの、空き家。


「………ハァ…」


西日が射し込むそこは、狂いそうな橙の部屋。

1日彷徨い、疲れた脚。
ヒュウヒュウと音を上げる喉。
朝から何も入れなかった中身のない腹。
職務放棄、土方に怒られるだろう自分。

隊服の上、胸に手を当て緩くさする。

耳を這う声。
蠢く湿った舌。
退を包み込む手。
貫く、熱。

思い出し、躯が震える。


「ク…ン…」


疼く、体内。
腸壁が律動する、ない熱を求めるように。
熱を帯びる下半身に手を当てて。
思い出し、真似る自分。


「ァ…ッ…やめ…」


『簡単に組み伏せられるとは…』


「アッ……や、ァ…ハァ…」


『山崎…退?』


「ウッン…ァ…ば…万サ…ィ」


『ならば…さがる。』


「やっアッ…ヒ、くァッ…ッ…!」


噛み締めた唇から声がもれ。
涙が伝う。
ドロリとしたモノが手に溢れる。

熱い、劣情。
拭った、ティッシュ。
狂いそうな、橙。

栗の花が、咲く。


「……もぅ…」


厭だ。
誰か、助けて。


「……クソ…」


おかしい躯と自分。
今の行為では物足りなさを感じる。
頭に浮かぶ姿。


「……アァ…」


なんでこんな事してるんだ。
あの日からずれ始めている…。

ガラッ


「!」


花が、薄れる。
風がさらう。
鍵を、かけ忘れた。


「…退、」


人工的な香り、香水。

栗の花が、枯れる。
黒い影。
橙を侵す黒。


「…ヒぁ…」


ギイィ

侵入する、男。
心臓が、痛い。


「…河上…」


万斉は部屋を見回して上体を起こした退の横に目を止める。

ももぐられた白い塊。

退に視線を向ければ開かれた前面。
どこか気怠そうな理由が残り香と共にそこかしこに残っている。


「…ぁ…ちょ、」


近付いてくる万斉に退は身なりを直す。
拭ったティッシュを隠そうとして掴まれた。
掴まれている手首から熱が伝わる。


「ちょっと…なにを…」


スン

手ごと鼻先に近付けると、栗の花の残り香。
青褪める退の手からそれを取り上げ捨てると細い指を口に含んだ。


「やめろよっ…ぁ、ンっ…ゃだ」


ちゅぷ、ちゅ、れろ

舌でくすぐり、辿り、吸い、味わう。

今朝、万斉の髪を乱した手に、コリリと歯を立てれば指が跳ねる。


「ァ…やだ、やめろって…ッ、」

「…味がする」

「は…?」

「…この手で、遊んだのでござろう?」


かぁ、と退の顔が赤く染まる。

薄い、平べったい手が逃げるのを押さえつけ、汗ばんだ首筋に顔を埋める。
唇を押し付け耳裏を強く吸うと、躯がビクビクと揺れる。


「あ、あ、あ…厭だ…ゃ…ンッ」

「主は口ばかりでござるよ。」


ズリ…


「アッ…やめろよっ…河上!」


橙は色濃くなる。
狂う、橙。
恐怖の黒。


「ひ…ァ…ぁぁ…ふっ、…っ!んっぁ…!」


万斉の手が退自身を扱う。
先程の事で色付いたそこはさらに敏感になり万斉の手の中で成長する。

先程求めた快感に。
万斉の肩口に顔をうずめる退は泣きたくなった。
その様子に万斉の口角がつり上がる。


「厭と云いながら受け入れる…犯される感覚が好き?」

「ちが…ア、ンタが…そうした、んだッ…ァア、クソ、も、やだ…ヒッ…」


黒、黒、黒。
眩しい橙。
橙に犯される、黒に犯される…。

香水の香りが脳天にキた。


「ァッ〜ッ…ッ!」


溢れる、精。

万斉の手に白く咲く。

それを万斉は舐めとった。


「…そうした?」


胸をいたずらに揉まれる。
退はその手をはたき落とすことができないでいる。

熱に浮かされる意識。
また、堕ちてしまう。


「拙者は主を犯しはしたが、そのようにした覚えはござらん。」

「……ァ!」

「抵抗しないのは主でござる…退。」


首を横に振る。
自分はそんなつもりじゃない!


「や…違う…違うよッ…厭だ…っ…」

「ふ…おかしいのは退では?」


冷たい嘲笑うような声に退は唇を噛んだ。


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ