小説

□華奢な腕《前編》
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「俺

ずっと
彩〈アヤ〉は俺の事好きだって思ってた。」







彩は黒目を小さくした後、

「へぇ」

とセリフを零し、

目を細めて笑った。



 
「私も、秀哉〈シュウヤ〉がそう思ってるもんだと思ってた。」



そして、遠くに視線を反らして

「まぁ」

と零し、

また視線の焦点を俺の目に重ねた。



 
「そのまんまだ。

私、秀哉好き。」




まさかそんなにあっさり言われるものだとは思っていず、

内心、酷く焦った。


そんな俺の心情を察したのか、

「何考えてんだよ。」

という言葉を乗せて
彩は着物の袖を俺の顔に軽くぶつけた。







思い違いだったのだろうか。



最後に彩の気持ちを確かめた気がしたのだが、

やっぱり俺にはその『好き』の意味が理解出来ないでいる。





一人でそんな事を考えているうちに、
彩の視線を感じなくなった。






 
雑喚きが聞こえる。


『先輩』だとか『写真』だとか・・・

そんな単語が何処からも溢れ出てきて。











誰かの啜り泣きの声が俺を孤独にさせた。










不思議と震えを止らせることの出来ない脚に全神経が走る。



彩が振り返らないことから、

きっと重い袴によって、周りからは見えないのだろう。





暖かい風が
俺の手に汗を握らせる。
















   
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