小説
□バニラ
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「ん、あった。」
自分の机を覗き、
数学の教科書を手にすると
彼に笑顔を見せつけた。
彼は無邪気に笑い、
わたしのそばまでゆっくりと歩いてきて
近くの机に腰をかけた。
わたしもかばんに目的の教科書をつめた後、
自分のイスの背もたれに軽く寄りかかった。
彼とは付き合い始めて数ヶ月。
決して長くはない仲だ。
グラウンドからは野球部の声が聞こえる。
反対側の校舎からは吹奏楽部の音階が聞こえる。
会話が見つからない。
話すことも無いのにお互い教室を出ようとすらしない。
ときどき
彼がこちらを見つめ、
黙って視線を窓の外に移すのを横目で感じる。
しかし
目を合わせることもせず、
逆にわたしが彼を見つめることもあった。
眩しい夕陽は、まだまだ落ちそうにない。
そんなことを繰り返して、
まだ十分も経ってなかっただろうけど、
なんだか
わたしたちにとっては
じれったく
そして重たく感じた。