小説
□ガトーショコラ
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マフラーと帽子からはみ出た顔にぶつかる風は
この季節を嫌いにさせる一番の理由
と言っても過言ではない。
その上、
自転車などを走らせると
肌がこれでもか
と言わんばかりに乾燥し尽きて
うっすらとヒビ割れていくことすら
感じてしまう。
こんな状況に達してしまえば
寧ろこの季節の醍醐味と言えるだろう。
いや、
言わなければならないのだ。
意識の片隅に
路地を置いておかなければ
自転車の細い車輪は
いとも簡単に滑り、
凍えた身体に
痛みまで教えさせてしまう。
勇ましい彼のオリオンの輝きなど
今の私にとっては
無縁のものだった。
「せんせ〜ぇ。」
白い水蒸気の代わりに
その言葉を吐き出したら
なんだか口元が緩んだ。
少し心が温まり
歌うように同じ単語を連呼する。
「せんせ〜♪
せんせ〜ぇ♪
・・・大好きです♪」
誰かに聞かれていたとしたら物凄く恥ずかしい。
だけど、
その人・・・
・・・その先生には聞かれて欲しかった。
もし言えたなら、
こんなに寂しい思いには
ならずに済んだのに。