小説

□ガトーショコラ
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恐る恐る教室のドアを開くと

向こうの空間からの暖かい空気は
私を包み込み、

私の凍り付いていた頬や指先は
水滴に懐かれた。



静かに開けたハズだったのに
そのドアは大袈裟な音をたて、

その音に反応した
若干名の生徒や先生の視線は
全て私に注目した。




 
「あれ〜?
こんな時間にどうしたの〜?」



入り口に近い側にいた先生が
歩みながら話し寄ってくる。


時計を見ると、
あと30分もせずに本日の授業が終わる時間帯。




「もう片方の塾が終わったついでに寄ったんです。」



意識もしていないのに
自然と口元が緩んだ。



教室の中を見渡すと

片手で数えられる程度の生徒達は皆、
文系担当の先生のスペースにいた。



「今日は、理系の生徒はいないんですか?」



そう私が尋ねると、

先生は


「三人来るはずだったんだけどね。

一人は連絡あったけど、残りは知らないよ。」



とニッコリと笑いながら答えた。



 
  
その生徒に対して
呆れの感情と
怒りの感情を抱きつつ、

ひそかに感謝の気持ちが
心の大半を埋めていた。




「じゃあ先生は

何もしなくても此処にいるだけで
お給料がもらえるんですね♪」



「まぁそうだけど、

・・・でもずいぶん罪悪感なんだよ、これ。」



「じゃあ私が教えてもらっても良いですか?」



「あ〜。
うん、良いよ〜。」



 
先生をまさかの独り占め!



「わ〜ぃ、やった〜!
嬉し〜い♪」



満面の笑みを浮かべながら
下の階に迷惑にならない程度に跳び跳ねた。


そんな私を見て、

先生もやわらかく笑った。



その笑顔を私だけに向けてくれている事に

私の心は
不思議な感情がごちゃまぜになり、

私の顔は先刻とは違う笑い顔をした。




用事が見付かった先生は

机へ向かう為に
私に背中を向けた。


私はその先生の背中が目に付き、

顔が赤く染まらないうちに
急いで目を逸らした。





















本当は・・・・・・、







ねぇ先生。

もし先生が振り返ったとき
私の顔が赤くなっていたとしたら、


先生は私の気持ちに
気付いてくれますか?







 
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