いっつも不機嫌そうな顔してる那岐。
今日だって、せっかく三人でピクニックに来たのに、ずっと仏頂面。
何がそんなに楽しくないんだろう。わたしはこんなに楽しいのに。風早だって笑ってる。
そうだ。せっかくきれいなお山に来たんだもの、きっときれいなお花が咲いているに違いない。そう思うとわたしはワクワクして、その気持ちを那岐にも分けてあげようと考えた。
「千尋、どこか行くんですか?」
「うん、ちょっとそこまで。すぐ戻るよ!」
笑顔で風早に手を振って向こうに駆けていった。

思った通り、そこには真っ白なきれいな花が咲いていた。
花が咲き誇るところに座って、この前、本で見たような花の冠を作ることにした。
これをみんなに作ったら、きれいだからきっと那岐だって表情が柔らかくなるはず。
作ったことはないはずだけど、テキパキと指先が動く。あっという間に出来上がった。
一番きれいに出来たのを那岐にあげよう。花冠を胸に抱えて、花園を去った。
「あ、あ…れれ?」
しかし数歩歩いて、自分がどこから来たのかわからなくなっていた。来るときは花を探すことに夢中で、来た道なんて振り返らなかった。
「うそ…風早、那岐、どこ?」
途端に不安が湧き上がってくる。涙が流れてきそうになったけどおさえた。
泣いたら、だめ!
自分に言い聞かせて、たぶんこっちだって方に行くことにした。
花冠をぎゅっと抱きしめた。


「千尋、遅いですね」
すぐに戻ると言った千尋だが、なかなか戻らない。風早は心配で仕方なかった。
「そんなに心配することないだろう?ここは戦なんてないんだから、命を狙われる心配なんかないよ」
ピクニックシートの上にごろりと寝ころぶ那岐。怠そうにあくびをした。
「戦がなくったって、いろいろ危険はあるよ。誘拐なんてされたら、ああ、千尋はどこにいったんでしょうか…」
風早が大きな身体で動揺している様がなんだかおかしかった。笑いが噛み殺せなくて、でも笑いたくなくて、那岐はシートから起き上がった。
「そんなに心配なら僕が探してくるよ。あんたは荷物番でもしてて」
那岐が千尋の向かった方向へ駆けていく。気をつけて、という風早の声も聞かずに。
その後ろ姿を見て、風早の口元が僅かに弛む。
「頼もしいな。さながら姫を助けに参る王子というところですかね」
微笑いながら、風早は空を仰いだ。


先程から同じようなとこばかり見ている気がする。千尋の心には不安しかなかった。
「うう…どこだろ、ここ」
ただぐるぐるとそこばかり回っていた。まわりを木々に囲まれている地形のため、幼い千尋にはすべて同じ景色に見えるのだ。
胸に抱えた花冠からひとつ、花が落ちた。
「あっ……」
那岐にあげるはずの花冠、その中でもとっておきの大ぶりな花が落ちてしまった。
せっかく頑張って作ったのに、と小さく呟いて、千尋はしゃがみこんでそれを拾う。
はずれてしまった花、まるで自分のようだと思った。
「……、っ」
身体の奥からわけのわからない悔しさと悲しさがこみ上げてくる。僅かにずきりと頭が痛んだ気がした。
そのせいで、手に持っていた花冠を握りしめてしまった。
「千尋!」
ふいに自分の名前が彼方から呼ばれた。声がしたほうを向くと、そこには那岐がいた。
「那岐…?」
「たくっ、こんなところにいたのか」
早足で千尋のそばに来て、目にかかった前髪を払う那岐。千尋はそれが怒っているような仕草に見えて、身が竦んでしまう。
「あ、ご…ごめんなさい…」
怖くて目線を逸らす。それに那岐は少し傷ついた。
「……千尋がいつまで経っても帰ってこないから、風早が心配してた」
そう言って左手を差し出す。
「え、…?」
「帰るよ。ほら、立ちなよ」
なかなか手を差し出さない千尋の右手を掴んで、よいしょ、と立たせた。すると、千尋の腕から花冠が落ちた。
「あ、…」
花冠が落ちたのと一緒に、千尋の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「千尋っ?!な、なんだよ、なに泣いてるんだよ」
突然の千尋の涙に混乱する那岐。辺りを見回して、足下に千尋が落とした花冠を見つける。それを拾い上げて、千尋にかぶせた。
「…っ!」
那岐に花冠をかぶせられて、千尋はある本を思い出した。この前、風早と読んだ、あるお姫様と王子様のお話。まるで自分が物語に出てきたお姫様で、那岐が王子様のようだと思った。
千尋の涙がとまる。そして花のような笑顔が浮かび上がった。
「えへへ…ありがと」
涙はとまったが、眦には雫が浮かんでいる。那岐は腕を突き出して、千尋の目元を擦った。
「うわっ、きゃあ…あの、い、いた、い…よ」
「涙、あったからふいてやったんだ。ほら帰ろう」
残った花冠も拾い、もう一度左手を差し出す。笑顔のまま千尋はその手をつないだ。
那岐に手を引かれ、あっという間に元の場所に戻ってきた。千尋は風早に手を振った。
「すごい、わたし、いっぱい迷ったのに!那岐はすぐ着いちゃった」
「当たり前だろ。僕は千尋みたいに考えなしにつっこまないからね」
「むー…その言い方ひどいっ」
那岐の軽口に唇を尖らせながら、千尋はつないだ手を大きく振った。
「でもありがと。那岐がいてよかった」
もう一度、花のような笑顔をした千尋。つられて、那岐も微笑んだ。
「うわぁ…」
初めて見た那岐の笑い顔。千尋は一目でそれがすごく好きになった。
「那岐、笑ってたほうがいいよ」
僅かに朱がはしる頬のまま、那岐を見つめた千尋。しかしすぐに元の表情に戻ってしまった。
惜しいな、と思いつつ、千尋はつないだ手をぎゅっと握った。ずっと那岐と一緒にいたい、と幼心ながら祈った。
丘に吹く一筋の風が、髪を飾る花びらを揺らしていった。



→久し振りにちびなぎちひをv
千尋は、最初は那岐のこと怖いんじゃないかなー。と妄想。わけありまくりだものね。

拍手、ありがとうございました(*´∀`*)

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