桐青★島準

□だって本気の恋だから@
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[だって本気の恋だから@]

「慎吾ぉ、お前2組のコと別れたってマジ?」

…ゲッ。
本山さんその話題はやめて下さい。

「ウソ!こないだ告白されて付き合い始めたんじゃなかったすか?」

……利央!お前まで乗っからなくていいんだよ!

「なんで?結構可愛かったのにあの子」

……うっ…和さんまで!
心臓にわりーよ。先にグラウンド行っちゃおう。

ざわめく部員たちの後ろを、こそこそと逃げるように通り抜けグラウンドに出ようとしたとき、一瞬慎吾さんと目が合った。

意味を含ませた笑みをみせて、惜し気もなく慎吾さんはすぱっと言い切った。


「本命と付き合うことになったから♪」
「「「えー!!!」」」


みんなの声が部室内にビリビリと響く。


「誰だよ」
「うちの学校の子かよ?」
「てか慎吾、本命ってとうとう一人にしぼる気になったのか…」
「な、もうやることやっちゃったのか?」


人聞きわりーこと言うなよ、そう笑いながら慎吾さんは練習着に袖を通す。


「まだしてねーよ。…何も」
「「「なんにも!?」」」
「何にも。キスもしてなきゃ手も握ってねー」
「何で!?」
「恥ずかしがりだから」


どよめく部内にいたたまれなくなって、一人部室を後にする。
パタンと閉めたドアに背中を預けて、空を見上げる。

顔があつい。
きっと耳まで赤くなってる。

…そう。
慎吾さんの言う“本命”はオレ…高瀬準太のこと。



「準太さ、オレとつきあわねぇ?」


そう慎吾さんに言われたのは昨日。
部活が終わった後のグラウンドのわきで、汗と泥でべとつく顔を洗ってるときだった。

唐突に「ちょっとそこのタオルとって」とでもいうように慎吾さんが言うから、そういう意味だと思わなくて。


「どこにですか?」


なんて返事をして笑われた。


「どこにじゃなくて。
“オレ”と付き合わない?って聞いてんだけど 」


ずっとお前が好きだった。
そう言われても信じることが出来なかった。
だって慎吾さんって、野球は上手いけどそっち関係はてんでだらしなくて。

来るもの拒まず。
去るもの追わず。
泣かせた女は数知れず。

多分今、付き合ってる人もいた気がする。


…で、俺のことが好き?



「慎吾さん…説得力ないです」
「あ、やっぱり?」


ぺろっと舌を出して、悪戯っ子みたく慎吾さんが笑う。


「慎吾さん、冗談なら…」
「冗談じゃねーよ」


急に真面目な顔つきになった慎吾さんに、不覚にもドキッとしてしまう。


「ま…仕方ねえよな。今までが今までだし。オレ、いい加減だったしな…けど」
「……けど?」
「お前今日、裏庭で誰かに告白されてただろ?悪いけどオレ二階の渡り廊下から見ちまってさ」
「あ……はい。断りましたけど」
「オレ今までさ、男同士だし、好きだとか言ったら準太ひくだろうなーと思ってた訳よ。でも今日それ見ちまって…誰かにお前持ってかれるのはやっぱり嫌だって思ってさ」
「……はい」
「準太、オレのことキライ?」
「……キライ…じゃない、ですけど…スキかって聞かれるとそれはそれで微妙なんすけど…。」
「だったらお試し期間で一週間、つきあってみねえ?」
「お試し期間…ですか?」
「そ。その間に準太がオレのこと、スキになったらそのまま付き合う。やっぱり先輩後輩のままがいいって言うなら、オレも潔く諦めるからさ。」


いつもの余裕に充ちた慎吾さんはなりを潜めて、その表情はいつになく真剣で……だから駄目だって言えなかった。


「…わかりました。」
「え?」
「お試し期間、一週間…付き合います。そのかわりその間、その……あの…。」


言葉を言いあぐねるオレを見て、慎吾さんが苦笑する。


「分かってる。何もしねえよ。」


………一週間、準太がオレのこと、スキになるよう頑張るからさ。

そう言ってウインクしてみせる慎吾さんはもういつもの慎吾さんで。


…何でオレ、断らなかったんだろう。

部室に戻って行く背中を見ながらそう思う反面…慎吾さんの突然の告白に、自分の心臓の音がいつもより、早く大きく聞こえるのを感じていた。






Aへ続く。



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