桐青★島準

□だって本気の恋だからB
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慎吾さんと、お付き合い。お試し期間三日目。




だって本気の恋だからB





「準太、ホレ。」
「あ…どうもっす。」


朝練が終わり、タオルを探していると慎吾さんが自分のタオルを投げてよこしてくれた。

素直に借りて顔を埋めると、ふわりと慎吾さんの匂いがする。


…うわ…なんか…。


恥ずかしくなってタオルから顔をはなす。

顔、赤くなってるかな…。

ばちっと目が会って、慎吾さんが吹き出す。クシャっと頭を撫でられて耳元で囁かれた。


「顔、真っ赤。そんな顔してたら喰いたくなる。」
「なっ!…慎吾さん!!」


ニヤリと笑う慎吾さん。

お試し期間に入って三日。オレ達はずっとこんな調子だった。






和さん達と先に部室を出ていくのを見送ると、程なくしてメールが届く。


『今日も昼メシ一緒に食える?』
『大丈夫です。』

『今日は利央に見つからないように来いよ。』

『わかりました。』

『昼休み楽しみにしてるよハニー♪』



はっ…ハニーって…慎吾さん…恥ずかしい人だな、もー…。

携帯をポケットにしまい込んで、いそいそとオレも部室をあとにし、教室に向かった。




3限目。
眠い目を擦りながら、ふとグラウンドを見ると、体育の授業中の慎吾さんと和さんが見えた。

サッカーボール追っかけてる慎吾さんは、野球やってるときとちがってなんか子供っぽい。

ギャーギャー言いながら楽しそうに笑ってる。


昨日一昨日の二日間だけでも、今まで見ることのなかった慎吾さんを見た気がする。

まだまだオレの知らない慎吾さんがあるのかな。


……あれ、なんだろ、この気持ち。オレ、慎吾さんのこと、もっと知りたい…のか?


じーっとみてるとメンバーチェンジした慎吾さんと目が合った。
にっこり笑って手を振ってくる慎吾さん。
恥ずかしくて会釈だけするけど、なおも手を振りつづけるから仕方なく手を振り返すと、慎吾さんは嬉しそうに笑った。


「楽しそうだなー高瀬。問い5前に出て解いてみるか?」


先生の声に、オレは肩をすくませた。





昼休み、先生に用事を頼まれて、思いがけず遅くなってしまった。屋上へと続く階段をかけあがり、バタンと扉を開ける。


「慎吾さん!すみません遅くなっちゃって…」


慎吾さんはその明るい色の髪の毛を陽にさらして、小さな寝息をたてていた。
コンクリートの壁にもたれて。

購買で買ったらしきパンはまだ手を付けてない。


…昼メシ食わずに、待っててくれたんだ…。


部活が終わって、家に帰ってからもすぐには休まず、勉強してるのだろう。



「慎吾、さん。」



小さな声で呼んでみるけど、返事はない。



「慎吾さん。」



もう一度、呼ぶ。
だけどまだ、起きる気配はない。寝かしといてあげたほうがいいのかな。
だけどもうあんまり時間ないし…。



「慎吾さ…えっ…」



起こそうと伸ばした腕を掴まれ、グイっと引っ張られ、次の瞬間、唇に温かいものが触れた。

慎吾さんの、唇。


「……っ…」


それは触れるだけの、優しいものだった。
ややあって、慎吾さんの唇がゆっくりとオレの唇から離れていく。


「…お、きて…たんですか。」
「途中で起きたんだよ。」
「何にもしないって、言ったじゃないですか…。」
「悪りぃ。つい。」


ペロッと舌を出して見せる。慎吾さん。


「こういうとこがカルイとか言われちゃうんだよなー、オレ。」


慎吾さんは立ち上がってズボンについた汚れを掃うと脇に置いていたパンの袋を掴んだ。


「え…慎吾さん?」
「悪い準太、今日は一人で食ってくれっか?なんかオレ、今日抑えきいてないみてーだし。」



明日は一緒にな?

そう言って慎吾さんは教室に戻っていった。



オレはしばらくそこから動けずにいた。

慎吾さんの唇の感触が、まだそこに残ってる気がして。


「…ウソつき…」


オレは思い出してた。
キスされたことじゃなくて、そのあと言った慎吾さんの一言。



―――こういうとこがカルイとか言われちゃうんだよなー、オレ。



カルくないですよ、慎吾さん。

だって。

オレを掴んだ腕も、触れた唇も。


微かに震えてたから…。



Cに続く。


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