桐青★島準
□だって本気の恋だからD
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あのあと部室に入って来た慎吾さんに、見ちゃいましたよーって利央は楽しそうに話してた。
あれはそんなんじゃねーよって慎吾さんはいってたけど、そこに居たことは否定しなかった。
………。
慎吾さんとお付き合い、お試し期間五日目。
[だって本気の恋だからD]
…眠れない…。
時計は既に2時をまわってる。昨夜も寝れなくて昼間しんどかったのに。
明日聞いてみようかな。
利央が言ってた女の子のこと。
…だけど。
オレ自身の気持ちがはっきりしてないのに、問いただすのもおかしい気がする。
三日後…お試し期間が終わる日のことさえ、まだオレはどうするのか決められない。
自分がどうしたいのかも解らない。
だけど気になって仕方がない。
布団を頭まですっぽりかぶって、ギュッと目を閉じる。
眠れないけど寝なきゃしんどい。
考えるな。
考えるな。
考えるな…。
「準太…お前。」
「スンマセン和さん…寝れなくて…。」
絶句。
和さんの顔は、まさにそんな感じ。
…だよな。
考え疲れてうとうとし始めた頃、目覚ましがけたたましく鳴った。ほぼ一睡も出来ないまんま朝が来た。
顔には昨日よりくっきり鮮やかな二つのクマ。
「朝練、休むか?」
「いや、やるっす。」
「…無理はするなよ?」
何かあるなら、相談にのるからな?
和さんはオレの肩をたたいて着替え始める。
オレも早く着替えなきゃ。
急いで着替えて、しゃきっとしない自分にカツを入れるようにパンと頬を叩く。
しっかりしなきゃ。
そう思ってたとこに、慎吾さんが入ってきた。
「…おはようございます」
「はよ。…昨日にも増してひでえな、そのクマ」
「…大丈夫ですよ。先行きます」
慎吾さんにそう言うと、オレは逃げるようにグラウンドへ出た。
昇り始めた朝日が寝不足の目には眩しかった。
こっくりこっくりしながら午前中の授業をなんとかうける。今日は慎吾さんからのメールはきてない。
…待ってるわけじゃないけどさ。昨日はキャンセルされたから、今日はどうなんだろうとか思って。
午前中の授業が終わりを告げる、その直後だった。
「準太。」
「…慎吾さん!?」
「授業すんだんだろ?メシ食いに行くぞ。」
慌てて弁当を掴んで廊下に出ると、慎吾さんは優しく笑って、くるりと背を向け歩き出す。
オレは急いでそのあとを追った。
「わざわざ迎えに来たんスか?」
「……。」
「慎吾さん?」
「…気になったんだよ。あんまり酷い顔してっから。」
屋上へ続く階段をのぼりながら、振り返らずに素っ気なく答える慎吾さん。
……気にしてくれてたんだ。
日当たりの良い、いつもの場所に腰をおろして、弁当を広げる。
…だけど何となく、沈黙してしまう。
「…準太さぁ。」
「は、はい!」
いきなり慎吾さんに名前を呼ばれ、弾かれたように顔をあげた。
「オレに聞きたいこと、あるんじゃねーの?」
「…っ」
いきなり核心をつかれて言葉に詰まる。どうしよう。聞いてもいいのか?
「準太?」
「…………あの…」
「慎吾!!」
………慎吾??
声のしたほうを振り向くと、髪の長い美人。三年生。
そして気付く。
この人、この間まで慎吾さんと付き合ってた人だ。
オレには目もくれず、彼女は慎吾さんに歩み寄った。
「昼休み、ちゃんと話そうってメールしたでしょ!?」
「…オレはこれ以上話すことないって返事しただろ?」
「嫌よ!だってあたし…まだ慎吾のこと好きなんだもん!」
涙目になってしまった彼女を、弱ったなって顔で見ている慎吾さん。きっと昨日利央が見たのはこの人だ。
「慎吾さん…オレ、外しますから。」
「準太!?ちょっ…」
「また部活で。」
慎吾さんと彼女を残し、小走りに屋上を立ち去る。
『好きなんだもん!』
彼女の声が耳から離れない。
彼女は本当に慎吾さんが好きなんだ。
モヤモヤする。
自分でもわからない感情に蝕まれてく。
オレは階段を一気に駆け降りた。
二日間ほとんど寝れてないせいで、放課後が近づくにつれて気分が悪くなっていく。
六限目の授業は机に突っ伏したまんまだった。
けど部活は休みたくなくて、部室へと向かう。
慎吾さんは日直で遅れて部活にやってきたから昼休みの事にはふれずにすんだ。だけど気になって集中できない。考えるまいと思うのに。
オレはどうしたいんだ?
慎吾さん…わかんないよ。
オレ…。
その時だった。
「危ない!!」
誰かの大きな声とほぼ同時に頭に酷い衝撃と痛みが走る。
視界がぐらりと大きく揺らいだ。
そしてオレは、意識を失った。
Eに続く。