桐青★島準
□だって本気の恋だからE
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頭が痛い。
気分が悪い。
うっすらと目をあけると、白い天井に白い壁。
オレの部屋じゃない。
ここ…何処だ?
慎吾さんとお付き合い、お試し期間六日目。
[だって本気の恋だからE]
ぼーっとする頭で揺れるカーテンを見つめる。左腕には点滴の管が繋がれていてゆっくりと液が落とされていた。
ここは…病院?
「準太、目が覚めたの?」
「…母さん?」
「頭痛くない?気分はどう?大丈夫?」
心配したのよ、と母さんは安堵の色を浮かべた。
練習中、誰かが打ち損じたボールが頭に当たったらしい。頭には大きなタンコブができていて、頭痛も気持ち悪いのもそのせい。
そしてそれは昨日の話で、どうやらオレは一日近く目を覚まさなかったようだ。
「とりあえず検査の結果がよければ、すぐに退院できるそうよ。野球部のみんなも心配して昨日も今朝も寄ってくれたのよ」
今日は土曜日。
今頃グラウンドでは、みんな練習で汗を流し泥にまみれている頃だろう。
「母さん、そこのケータイ、とってくれる?」
手渡された携帯電話は充電が切れていて、目が覚めたことを連絡しようにもできない。
みんな心配してるだろうな…。
和さん、利央。
…慎吾さん……。
「母さん一度家に帰って、お父さん達のご飯の用意してまたくるから。具合悪くなったらすぐナースコールするのよ?」
母さんに携帯の充電器を持ってくるよう頼み、連絡用に十円玉を貰う。帰っていく母さんの背中を見送ると、点滴が終わるのを待ち許可をもらって公衆電話まで歩いていく。
やっぱり主将だし和さんに電話すべきかな。でも慎吾さん、心配してるだろうな…。
そこまで考えたとこで、携帯じゃないとどっちの電話番号も分からない事に気付いた。マヌケだよな。
結局学校に電話をかけて状況を告げ、担任と顧問、それから野球部に伝言を頼んだ。
病室に戻ってすることもなく、ベッドに横たわる。
みんなに心配をかけてしまった。
練習も休んで迷惑をかけてしまった。
情けない。
茜色になってく空を見ながら自分の不甲斐なさに唇を噛み締める。
しっかりしなきゃ。
自分に言いきかすようにかたく目を閉じた。
「準さん!心配したんスよー!」
練習の帰りに利央と和さんが寄ってくれた。
見舞いだといって菓子袋を手に下げた利央。和さんからは心配の言葉と、監督が『ボーッとしてるからだ、復帰したらしごいてやる』って言ってたって聞かされた。
「すんません迷惑かけて」
「大丈夫なのか?あ、そうそう、後で慎吾も寄るって言ってたぞ」
和さんの何気ない言葉に、ドクンと心臓の音が大きくなる。
慎吾さん。
きっと心配してる。
昨日、慎吾さんと元カノが話してる途中、逃げるようにその場を立ち去った。
オレ達のお試し期間も明日までだ。答えを出さなきゃいけない…。
「じゃあオレ達、帰るからな」
「準さんいないとつまんないから早くよくなって下さいね!」
「はい。和さんありがとうございました。利央ありがとう」
検査の結果もでてないし体にさわるといけないからと、利央と和さんが帰っていく。
二人を見送るとベッドに横になる。でっかいタンコブは痛むけど気分の悪さはマシになっている。
「準太」
不意に呼ばれて、バッと振り返ると入口に見慣れた金髪。
「慎吾さ…痛っ!」
「ああ、そんな急に動くな。頭やってんだから」
起きなくていいから寝てろよ、そう言ってベッド脇の椅子に腰掛ける慎吾さん。
「迷惑かけて…心配させてすみません」
「…検査結果でるまでは心配だけど、元気そうでよかった」
優しい声で言われて、ああ、本当に心配させたんだと思った。胸がチクンと痛んだ。
状況とか利央と和さんのことも話して。慎吾さんは笑いながら聞いていた。
…不意に、会話が途切れたその時だった。
「準太」
「はい?」
「…オレ達、別れよっか」
いきなりの慎吾さんの言葉に、耳を疑った。
言葉が出ない。
「……、え?」
ちょっと困ったような顔で笑いながら慎吾さんは、一日早いけどね、って言葉を連ねた。
「オレが軽率に付き合おうなんて言ったから、準太不安定にさせちまって。ごめんな」
「…慎吾さん…」
「元通り、先輩と後輩に戻ろう」
…六日間楽しかったよ、準太。
オレの髪をふわりと撫でて、早く戻ってこいよって言って、慎吾さんは病室から出ていった。
…これでもう、悩む必要なんてないんだ。クラスメイトと昼メシ食って部活やってぐっすり寝て、一週間前の日常が戻ってくる。
それでいいんだ。
きっともう、心が掻き乱されることもない…。
オレは黙って、慎吾さんの出て言ったドアを見つめていた…。
Fに続く。