桐青★島準
□だって本気の恋だからF
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慎吾さんが出て行った病室で、一人ぽつんとベッドに腰掛けていた。
もう悩まないでいい。
次に会う時は今まで通り先輩と後輩。
なのにモヤモヤするのは何でなのかな。
[だって本気の恋だからF]
食事の時間。
栄養バランスの管理してあるのはわかるけど、病院の食事って何でこんなに味気無いかな。
育ち盛りの高校生には量も足りない。
利央が持って来てくれた見舞いの袋は見事なまでに菓子ばっかり。中から飴を取り出すと包みを開いて口に入れた。ソーダ味のそれはシュワシュワしてて懐かしい感じだった。
『別れよっか』
ふと慎吾さんの言葉を思い出す。六日間で終わったお試し期間、今まで知らなかった慎吾さんの一面や表情をたくさん知った。
慎吾さんが終わりにしようと言い出さなかったら、自分はどの答えを選択しただろう。
「準太、具合悪くない?大丈夫だった?」
不意に母さんが入ってきたのに驚き、弾かれたように顔をあげた。下着やパジャマの着替え、タオルを引っ張りだしながら、夜も付き添おうかと問う母さんに、大丈夫だからと答えた。
持ってきてもらった充電器に携帯を繋ぐとベッドに転がる。
食事はしたけど足りないと言ったら林檎を剥いてくれた。こういう時の林檎は美味く感じるのは不思議だ。
「じゃあ明日の朝来るから。ちょっとでもおかしかったら看護師さん呼ぶのよ」
心配しながら帰っていく母さんに手をふり、布団にもぐって目を閉じる。丸一日近く眠っていたにも関わらず寝てしまいそうだ。
夜中目を覚ますかなと思いつつ、そのまま吸い込まれるように眠りにおちた。
どのくらい、寝たんだろう。
携帯の充電が完了した音で目が覚めた。目が覚めるとなかなか寝れないもので、のっそりと体を起こすと真っ暗な部屋のなかで携帯の電源を入れる。暗闇の中で急に明るく光る液晶は目に痛い。
病院で携帯電話の使用はいかがなものかと思いつつ、個室だし、まあいいかと、とりあえず音が響かないようにマナーモードにしてメールを受信した。
受信されたメールが5つ。
新しいものから和さん、利央、タケ、ヤマサン、どれもボールが当たった後心配してくれたメール。
そして1番古いメール。
慎吾さんだった。
『さっきはゴメン、あんな場面見せて。
彼女とはもう、切れてるんだ。
急に別れきりだしたから、納得いかなくてまだメールとかきてるけど、今のオレには準太だけ。準太しかいらない。
日に日に準太を好きな気持ちが大きくなっていく。
だから…正直準太の返事が少し怖いよ(笑)
悩ませて、ゴメンな。
じゃ、放課後、部活で。
大好きだよ。』
日付は昨日、時間は五限が終わった頃だ。
…………ポタリ。
オレの目から、何かが落ちた。
落ちたそれが、シーツを濡らす。
…何で涙なんかでるんだよ。
もうオレと慎吾さんは終わったのに。
もう悩まなくていいはずなのに。
慎吾さんが別れを考えたのは、きっとオレが眠っている間だ。
慎吾さん。
どんな気持ちでオレに別れよっかって言ったの。
たった六日間、それも試しに付き合わない?みたいな付き合いだった。なのにポタポタ落ちる涙が止まらない。
何だよこのキモチ。
これじゃまるで、オレ…。
…慎吾さんのこと、
好きみたいじゃんか…。
涙を乱暴にゴシゴシと拭いて、時計に目をやると既に日付は変わっていた。
だけど迷わず、携帯のボタンを押す。