西浦☆

□約束。
1ページ/1ページ



気付いてしまった恋心は、とどまる事を知らず加速していく。
君を知りたい。
もっと知りたい。
そう思ってやまない。





「水谷お前、なんか今日変じゃない?」


「おぉ、落ち着きねえし」


「…そ、そんなことないよ」



…今日の部活はミーティングだけ。


だから今日は勇気を出して栄口を俺の家へ誘うんだ。
この間からずっとそう思ってた。次のミーティングの日には、って。


授業中も休み時間も落ち着かないよ。


ミーティング中も気になって、栄口のほうばかり見てしまう。


「じゃ各自今日は体休めて!明日の朝練遅れないように!」



花井の声でミーティングは閉められ、みんなバラバラと教室からでていく。



「あ、あ、待って栄口」



巣山たちと出ていこうとする栄口を、慌てて呼び止めた。心臓の音がすごい。



「?何?水谷」



「…今日、うち、来ない?」



発した声はうわずってて。
緊張で指がプルプル震えるのがわかる。



「ゴメン…今日は、ムリ」


「…そ、そう。じゃ仕方ない、な」


断られることを、想定してなかったわけじゃない。
でもちょっとショックで、…多分今オレ、凄く情けない顔してる。


「…ちゃんが」


「…え?」


「姉ちゃんがさ、熱出してんの。父さん出張中だし、オレが家のことやんないと」


「?」


「うち、母さんいないからさ」


「そう、なんだ…」



栄口はそう言って、少し淋しそうに笑った。でもすぐにいつもの笑顔でバッグを背負う。



「だからこんな時位は家のことやんないとね。じゃ、先帰るから。また明日ね、水谷」



ぽん、とオレの背中を叩いて、栄口が教室を出ていくのを、何も言えずにただ見ていた。

ふと栄口の足が、とまる。



「来週」


「え?」


「来週、行っていい?お前ん家」


振り返った栄口の顔は、夕日のせいじゃないのがわかるほど真っ赤で、はにかんだような笑顔にオレは目を奪われた。



「…う、うん」


「じゃ、約束な」



踵を返して、栄口は教室を出ていった。


約束。


その言葉を、頭の中で何度も繰り返す。自然に緩む口。浮かぶ笑みを落ち着かせる。



「栄口!待って!校門まで一緒に帰ろ!」


オレは急いで、沈む夕日で茜色に染まった教室を後にした。




Fin.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ