小話《パロ・転生部屋》
□涙そうそう
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「曽良!」
「なん・・・うるさい・・・」
「そらぁ!」
体を揺すられて、うるさいと一度は手を払ったのたが、もう一度泣きながら呼ばれてしまったので眠い目をこすってベッドから体を起こした。
ベッドの端を見ると、太子が顔をシーツに埋めていた。
小さな肩を震わせていて、ときおり嗚咽がもれる。
「何を泣いてるんです、太子」
「ひっ、ひぅぐっ」
顔を上げさせて曽良は少し後悔をした。
太子の顔は涙と鼻水と涎でグチャグチャで、・・・それはいつもの事であったから良かったのだが。
目が、いつものあの達観したような澄んだ目でなく、歳相応の六才の子の目だった。
この目の太子は、苦手だ。
「妹子、がっ・・・ね・・・!」
「小野君ですか」
「ちっ・・・がう、しょっがっこぉ・・・いっちゃう、・・・んら・・・っ!ひっ、うぐぅう」
太子が声を出して泣くのを我慢しようと唇を噛んだ。
どうやら、太子の一番お気に入りの友人と小学校が別になってしまうらしい。
太子も今年で幼稚園を卒業して小学生になるのだけれど、ここらへんは通う小学校が区で決められるから、幼稚園から家の遠い太子は幼稚園のほとんどの子と小学校が別になるだろう。
そんなこと、前世の記憶を持った大人並の思考の太子なら、入園当初から知っていたはずなのだが。
「ひっ、ひぃっ、ぅっ」
「・・・よしよし」
頭を撫でてやると、目からこぼれる涙の量が増える。
それでも声を出さずにいるのは、隣の部屋に寝ている夜勤の芭蕉を気遣っているからだろう。
まったくもって前世の記憶があるというのは面倒な事だと曽良は嘆いた。
こんな小さな子供が、大人を気遣って声を押し殺すなど・・・。
「太子」
「うっ」
「泣いてしまいなさい」
ひょいと持ち上げて、膝に向かい合わせになるようにして座らせた。
そしてぎゅうと抱き締めてやる。
頭の隅で前世の己であったなら絶対にありえなかったろうな、などと思ったがすぐに消した。
今はこの弟分の方が大切だ。
「隣のオッサンなら心配いりませんよ」
「う、う・・・ひっ
うああああああああん!」
「まったく、子供は泣くのも仕事のうちですよ、我慢してどうするんです」
わんわんと泣き続ける太子の背中をポンポンと叩きながら、曽良は笑った。
太子が曽良の腹に顔を押しつける。
腹が涙で濡れて冷たかったが、心が何故か温かくてて、曽良は嬉しくなった。
と、ドダーン!と突然ものすごい何かが落ちる音が隣からした。
あまりの大音に太子もピタリと泣きやむ。
びきり、と曽良の額に青筋が浮かんだ。
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